Switch『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』がとてもよかったという感想。映像、音楽、ゲーム性、キャラクター、翻訳。全部いいよ、全部だよ【おすすめゲームレビュー】

by堅田ヒカル

更新
Switch『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』がとてもよかったという感想。映像、音楽、ゲーム性、キャラクター、翻訳。全部いいよ、全部だよ【おすすめゲームレビュー】
 今年、いちばんいいゲームかもしれない。

 
2024年の“俺のゲーム・オブ・ザ・イヤー”がもう決まってしまうかもしれない。

 そう思いながら、僕は『スナフキン:ムーミン谷のメロディー』をプレイしていた。

 本作はトーベ・ヤンソン作の童話
『ムーミン』シリーズに登場するスナフキンを主人公としたアクション・アドベンチャーゲーム。

 プレイヤーはスナフキンとなって美しく表現されたムーミン谷を歩き回り、何者かに作られてしまった人工的な公園を壊して元に戻していく。

 ムーミンがゲーム化される、また人気キャラクターのスナフキンが主人公だということで、注目していた人も多いんじゃないかな。ゲームについては
別記事でも紹介しているのでそちらも見てもらえればと思う。

『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』冒頭をレビュー。自由を愛する旅人(アナーキスト)スナフキンになれる美しすぎる癒しの謎解きアドベンチャー【TGS2023】

 昨年の東京ゲームショウ2023で冒頭10分程度をプレイして、その後ずっと楽しみにしていた。

 発売後にさっそくプレイしてみたところ、これがじつに……よかった。まったくもってよかった。悪いところが何もなかった。全部よかった。10点満点で10点を付けたい。

 本稿では『スナフキン:ムーミン谷のメロディ』についてよかった点を説明していく。それはこのゲームのほぼすべてです。

 ゲームレビューを書くとき、こうも欠点がなく絶賛を続けてしまうと逆に嘘っぽくなって説得力に欠ける文章になってしまうというものだけど(おしなべて批判している方がかんたんにいい批評に見えるものだ)、それにしてもいいゲームだったと言おう。

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※本稿にはちょっとだけ物語のネタバレがあるから、まだ遊んでいない人は気をつけてね。


ムーミン谷に住みたいよう

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 まず、ムーミン谷を自由に歩き回れるところがいい。世界は水彩画風の絵の具の感じが残る独特のビジュアルで描かれている。これがいい。めっちゃいい。

 長い冬が明けた春、覆いかぶさる雪に耐えた草木が生えてきて緑を取り戻してじっとりあたたかい。雪解け水が流れ込む川は、冷たいけれども勢いよく流れて何か生き返ったような感じがする。僕は雪国の出身なのだけど、雪深い土地だからこそ春のよろこびというのは特別にすごい(それをよくあらわしている「雪とけて 村いっぱいの 子どもかな」という一茶の句が好きだ)。

 ご存知の通り
『ムーミン』シリーズはフィンランドで生まれた童話・コミックで、本作『スナフキン』は同じく北欧のノルウェーのスタジオ・ハイパーゲームズの手で制作された。

 行ったことがないから詳しくは知らないけど、きっとフィンランドもノルウェーも、冬はきびしい寒さで雪に閉ざされることだろう。原作が持っている自然観が、その気候をよく知る開発者によりゲーム上でも表現されている……気がする。

 そんな美しい北欧の自然に根ざしたムーミン谷を自由に歩き、走り回れる。いいよね。いいでしょう。
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 しかもただきれいな風景が描かれているだけではなく、そこにはムーミンキャラクターたちが続々と登場するのだ。

ムーミンキャラクターがかわいい! かわいいよ! 世界中の人が知ってるよ!

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改めて思ったのだけど、ムーミンのキャラクターはかわいい。

 ムーミンもかわいい。顔は白くてしもぶくれでつるっとしていて目が丸い。おなかはふわふわぷよぷよしていそうだ。さわりたい。

 ニョロニョロもかわいい。どういう存在なのかと改めて問われると困るけれども、白くてニョロニョロとしてかわいい。近づいていったときにニョロニョロッと避ける動きがあまりにニョロニョロっぽくてすばらしかった。画面が処理落ちするほどたくさん出てきてうれしい。「画面がちょっとカクついてもいいからニョロニョロはたくさん出すのだ、そっちのほうがニョロニョロしていてかわいいのだ」という制作陣のこだわりを感じる。そのこだわりは正解だと僕は思う。

 スナフキンの姉であるリトルミィもやはりかわいい。いい性格をしている。船に乗ったスナフキンの荷物に紛れ込んでいるシーンは思わず笑ってしまった。
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 ムーミンキャラクターたちがかわいい。世界中でムーミンが人気であることからもいまさら言うまでもないことではあるのだけど、本作はそのキャラクターたちの魅力がていねいに表現されている。

 “原作愛のない他メディア化”というのがよく俎上に載せられるけれども、本作に関して言えば原作愛はまったくもって心配いらない。欲を言えば、原作ファンから
「スナフキンよりも強火である」とコメントされていた、スナフキンの父親ヨクサルも登場してほしかったな、と思ったくらいだ。いったいどんな人物なんだ、ヨクサル。

 また、「キャラクターがいい」というのは、もちろん見た目のかわいさもあるんだけどそれだけではなくて、セリフのひとつひとつがウィットに富んでいておもしろいという点も強調したい。

ウィットとユーモアに富んだセリフ。ていねいな翻訳

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 人を怖がらせることができない、と嘆くおばけを手伝ってあげて、立派に人を怖がらせるような大きさになったおばけのセリフ。

 
 「ほうら みて! おそろしいでしょう! へへへっ」
 ……かわいい。

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 スナフキンを捕まえた警官のセリフ。
 
 「たいほしたい ところだ! だが残念なことに 刑務所は いっぱいだと聞いた」

 これで放免になる。おおらか。とてもいい。
 (刑務所がすでにいっぱいだという治安は若干気になるところだが)

 架け橋ゲームズによるていねいな日本語翻訳は本作の美点の大きなひとつだ。

*クエストの内容もいい
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 小さなクエストをさまざまにこなしてストーリーを進行する。

 クモのためにちょうちょを捕まえてあげたり、ハーモニカを吹いてはい虫を集めたり。

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見てよセリフの味わい!

 ハーモニカや横笛、太鼓などの楽器を集めて生物にインタラクトして物ごとを変化させていく。

 よさ……。

徹底的にムーミン的であり、スナフキン的だ

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 ゲームのよしあしを語るうえで難しいのは、ゲームというのはどこまで行ってもエンターテインメント、嗜好品であって、「このゲームは僕にとってはおもしろいけれどあなたにとっては違うかもしれない」という状況がいつでもありえるところだ。

 それでもひとつわりと確かな評価基準になりえるのは「ゲームの仕様(つくりよう)がコンセプト(テーマ、中心)に沿っているか」ということで、本作の場合、その点自信をもって、合っていると言える。

 世界が水彩画風に描かれるビジュアルも、アイスランドのアーティストであるシガー・ロスによる音楽も、楽器を使ってインタラクトしてちょっとした謎を解いて進んでいくゲーム性も、謎やアクションの難易度も、

 何か隠れているものを観察と好奇心で発見することも、舗装された道じゃなくてあえて草むらを突っ切るとキラキラ光る“ひらめき”が集まってレベルアップしていくのも、キャラクタービの動きかたのかわいらしさも、

 机にしがみついて勉強させられていたフィリフィヨンカさんの子どもたちがスナフキンに感化されて水たまりでバチャバチャ遊んじゃうのも、ミイが洞窟で宝物を探してひとり突っ走って「ギャアアアアア」って叫んじゃうのも、

 DLC(早期購入特典)でわざわざスナフキンにパイプをくわえさせられるのも、古びた劇場を直すために駆け回るのも、スナフキンが強めにアナーキストなのも、

 
ムーミンのことが大好きなのも、ムーミンはムーミンで、スナフキンが怒り心頭で排斥しようとした公園番をムーミン谷に受け入れちゃうのも、流れる水も、吹く風も、虫が生きているのも、鳥が飛んでいるのも、全部、『ムーミン』的だ。

 
「もしも原作者のトーベ・ヤンソンが『ムーミン』をゲームにしたらどんな作品にするだろう?」という発想で作られたという本作のコンセプトに、すべてフィットしている。

 
全部が『ムーミン』に出てきそうな、いいシーンだ。

 公園番がみんなで演じる音楽劇を観るクライマックスは思わず涙がこぼれた。そしてその間、うしろがとんでもないことになっていて、ちょっと笑ってしまった。感動と衝撃のクライマックスはぜひ君の目で確かめてくれ!(古風な攻略本風)

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公園番も芯から悪いやつでは、なかった……。


まとめ 現代人の心に染みる自然幻想アドベンチャー

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 というわけで、『スナフキン:ムーミン谷のメロディー』は僕の“俺のゲーム・オブ・ザ・イヤー2024”最有力候補になっているほどいいゲーム。よいというのは、ビジュアルも音楽もテキストもすべてがゲームコンセプト――つまり
『ムーミン』に対する原作愛――に合っていて外れる部分がない。ゲーム性はわかりやすく謎解きやアクションの難度は物語の邪魔にならないけれど退屈じゃないというじつにちょうどよい塩梅。ゲームプレイに障害になる苦みというか抵抗というか、邪魔になる要素、嫌なところがひとつもなかった。

 そこに描かれているのは北欧の風景がベースになっているであろう美しい自然と景色。そしてムーミントロールを始めとした妖精たちが生きる世界。つまり幻想だ。トーベ・ヤンソンが暮らし、想像した世界が、現在のゲーム技術でていねいに表現されている。クリアーまで10時間程度、僕は美しい世界で楽しく遊んだ。できることならばこんなところで暮らしたいと感じるほどだ。

 あと本稿に書いていない点で特別よかったのは、スナフキンの意外なスナフキンらしさ、アナーキストと言ってしまっていいようなキャラクター性なのだけど、そちらについて詳しくは
冒頭にリンクを貼った別記事もご参照いただければと思う。

 もし懸念があるとすれば、僕も
『ムーミン』にそう詳しい方ではないけど、ある程度ムーミンキャラクターは見知っていたので、本当にムーミンやスナフキンやニョロニョロやミイを知らない、アニメも観たことがないという人が、どこまで感慨を得られるかは僕には未知数だ(そういう意味では本作は“キャラゲー”ではある)。それでも、本作が持つ空気感、原作者が生み出したキャラクターのかわいらしさは感じ取れるはず。じっさい世界中で人気を得ているように、知らない人でもむしろゲームを入口に『ムーミン』を知るきっかけになると思う。

 本作は現在、Nintendo SwitchとPC(Steam)向けにダウンロード専売で展開中。来月2024年6月13日にはパッケージ版が発売になる。未プレイの方はこのパッケージ版を待つのもアリかもしれない。パッケージ版は通常版のほかに限定版展開があり、店舗特典なども付く。限定版には100ページ超のブックレットが付くとのこと。

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どれも欲しくなっちゃう店舗特典(画像は架け橋ゲームズ公式サイトより)。

 
僕はこれがとても欲しい。ああ欲しい。「持ち物をふやすというのは、ほんとにおそろしいことですね」と、スナフキンに笑われてしまうかもしれないけれど(『ムーミン谷の彗星』)。

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 まあ僕は僕らしくするのだ。スナフキンがスナフキンらしくするように。

 とてもいいゲームだった。僕はムーミン谷に住みたい。将来的には。

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