『Fate/サムライレムナント』は“江戸のまち歩き体験ゲーム”としても楽しいという話

by井口エリ

更新
『Fate/サムライレムナント』は“江戸のまち歩き体験ゲーム”としても楽しいという話
 TYPE-MOONの『Fate』シリーズをコーエーテクモゲームスがアクションRPGとして仕上げた『Fate/Samurai Remnant』(以下、サムレム)。

 2023年9月28日に発売され、2024年2月にはDLC第1弾“断章・慶安神前試合”が配信開始。4月18日にはDLC第2弾“断章・柳生秘剣帖”も配信されます。

 断章・柳生秘剣帖では若かりし姿の柳生但馬守宗矩が登場し、辻斬り騒動でわく江戸の町で大立ち回りを演じるのだとか。まだまだ『サムレム』は終わりません!
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 アクションが爽快でストーリーもおもしろい、登場人物もみんなすてき……など、魅力はたくさんありますが、そんな
『サムレム』を、筆者は“江戸のまち歩き体験ゲーム”として楽しんでいます。

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 『サムレム』の舞台は慶安4年(1651年)の江戸。まぁざっくり400年近く前の時代になるわけですが、乱世の時代が終わって数十年経ち、多くの人が平和を享受する日々を送る頃。

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 左から、主人公の宮本伊織くんとサーヴァントのセイバー。ぶらりまち歩きの旅人です(違う)。

江戸のまち歩きゲーとしての『サムレム』

 『サムレム』では、主人公である宮本伊織くんが暮らす浅草から、御徒町、上野、品川、六郷大橋と、実際にいまもある地名が登場します。首都圏に住んでいる人からすると見慣れた地名ばかり。

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 筆者は神社が好きで、ふだんからいろいろな神社仏閣を参拝して回っています。
『サムレム』では神田明神、湯島天神、鳥越神社、増上寺や寛永寺、平間寺と、現存する神社や寺に行くことができます。ひえ~~楽しい……。

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 個人的に、まさか出てくると思わなくてひっくり返った場所がこちら。
八丁畷(はっちょうなわて)

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画面左上を見てください。は、は、八丁畷!

 神奈川県川崎市にある、決して大きいわけでもない、難読漢字の駅として知られる土地。江戸時代に川崎宿(現在の小川町付近)から田んぼ道が八丁(約800m)ほど続いていたので“八丁畷”と呼ばれていたようなところです。ゲーム内でもしっかり農村地帯として描かれています!

 ちなみに、名前のついていない町中にある小さなお社や道祖神にも参拝できたりします。探しながら歩くのも楽しい(浅草には参拝ミッションがある)。

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街中の稲荷神社に参拝!

 こうした小さなお稲荷さんはいまでも街中で見かけますよね。江戸時代は本当にたくさんあったようで、江戸に多いもののたとえとして、「伊勢屋、稲荷に犬の糞」という言葉が現在に残るほど。

 『サムレム』まち歩き、楽しいです……。もちろんストーリーもおもしろいのですが、ついゲーム内での土地の描かれ方や文化が気になり、気が付いたら本編そっちのけで探索するものだからストーリーが進まない(うれしい悲鳴)。

園芸屋がたくさん御徒町

 ではいろいろ歩き回ってみましょう。まずは御徒町。御徒町を歩くと、町のあちらこちらに朝顔を売る店があることに気づきます。

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朝顔だらけ!

 江戸時代には実際に園芸ブームが起こっており、とりわけ人気を博したのが朝顔でした。

 もっとも、史実上の朝顔ブームは伊織くんの生きた時代よりもっと後世の1800年代ですが、そこは
『サムレム』軸の話なので。最初に朝顔ブームが起きたのは、1806年3月の“文化3年の大火”からだと言われています。

 もともと変異しやすい性質を持つ朝顔。火事の焼け跡にほかの植物といっしょに朝顔を植えてみたところ、おもしろい形の朝顔がたくさん咲いたのだとか。

 そんな朝顔の栽培に、好奇心旺盛な江戸っ子たちは飛びつき、夢中になっていきました。江戸の街に現れた早朝の朝顔売りは江戸の名物として、書物や狂歌にも残ります。

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鬼灯の振り売り(行商)。これも江戸時代に見られた光景です。

 その後、街の発展と江戸幕府の崩壊に伴い御徒町の朝顔は廃れ、御徒町からほど近い入谷の十数件の植木屋が朝顔を造るようになりました。

 現在は入谷にも植木屋はいなくなってしまいましたが、例年、七夕の季節に行われる入谷朝顔市に歴史が受け継がれているのです……!

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現在の朝顔市の期間の入谷鬼子母神。

 入谷朝顔まつり(朝顔市)の間、入谷鬼子母神(真源寺)では境内や参道にも朝顔の鉢を売る店が並び、あさがおのお守りを授与しています。

『サムレム』に見る江戸の町・上野

 現在は顔のみの大仏様となっている、上野恩賜公園内の上野大仏。『サムレム』では“過去の姿”を見ることができます。

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顔だけが祀られている上野大仏。

 江戸時代以来、上野大仏は地震や火災といった災難に何度も見舞われました。
『サムレム』では頭が落ちた状態になっています。

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『サムレム』世界の上野大仏。

 上野大仏は大正12年の関東大震災で顔が落ちた後、寛永寺で保管されて再建される計画もありました。ですが復元されることはなく、体は第二次世界大戦時に供出されてしまいます。

 そして現在、
“これ以上落ちない合格大仏”として受験生からも信仰されています。ゲームでガチ観光できちゃう。

 さすがに現在の上野観光で外せない動物園やアメ横、美術館などはありませんが、いまも現存する不忍池や弁天堂の観光もできます!

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不忍池(&弁天堂)を観光する伊織くん。ストーリーを進めなさいよ。

 不忍池はセイバーの力を借りて舟で渡ることもできますが、現実の不忍池ではボートに乗れますよ。こんな部分でリアルとの連動が……!

 『サムレム』世界では場所ごとに季節が違うのですが、こちらは秋の紅葉(不忍池)とハスの花の見頃(初夏)のいいとこ取りという時季。もしかして東京観光の下調べにも使えるんじゃないか? このゲーム……。

住むなら品川がいい(個人の意見)

 『サムレム』世界の品川は、人で賑わっていて商店や飲食店もいっぱいあって便利そう。住むならここかな。

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 歩いてると
ケンカに遭遇したりするけど……。

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品川のケンカは主人公の意思で止めることもできます。

 まあ、活気があるということで。「火事と喧嘩は江戸の花」って言いますし。

 気を取り直して、
『サムレム』世界では品川は桜の時季。御殿山の桜、きれいですよ~!

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御殿山の桜きれい!
 現代にはこの御殿山は残っていません。でも、江戸時代が舞台のゲームだからこそ、現存しない山に登ることができる!!

 ちなみに、“御殿山”という名前自体は、現在も北品川のあたりの小学校や建物の名前として残っています。こういうのも歴史のつながりが感じられておもしろいですね。

 そして海の方に足を向けると、品川港では海苔が作られていました。品川から電車で2駅の大森が海苔で有名なのは知っていたけれど、筆者は正直、品川には海苔のイメージがありませんでした。

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品川港の板海苔。

 じつは、品川や大森など江戸近郊の海で生産された海苔は江戸の名産として名高く、“浅草海苔”と呼ばれ親しまれてきたのだそう。ちなみに、実際の歴史では海苔養殖が始まったのは享保年間(1716~1736年)のことだと推測されています。

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高級すぎて伊織くんには手が出せない海苔……。

 
この頃の海苔は高級品。庶民はなかなか口にできないものでした。ゲーム内でおにぎりは伊織君の体力回復アイテムとして使われますが、特別なおにぎりを除き、海苔は巻かれていません。ある意味、歴史に忠実……。

 そして、おいしい海苔を気軽に食べられる現代に感謝……!

 品川エリアには鈴ヶ森刑場も含まれます。鈴ヶ森刑場とは、かつて江戸に存在した刑場で、開設されたのは1651年(慶安4年)と、
『サムレム』の時代ジャストです。

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鈴ヶ森刑場。できたてほやほやの頃?

 この時代からは少し先の話になりますが、この鈴ヶ森刑場で処刑された人物として有名なのが“八百屋お七”。

 「好きな人にまた会えるかもしれない」という気持ちから放火事件を起こして火あぶりになった、八百屋お七の悲恋の話はあまりにも有名。井原西鶴の
『好色五人女』にも取り上げられて、歌舞伎や人形浄瑠璃などの題材にもなっています。

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「八百屋お七」歌川国貞(wikimedia commonsより引用)。

 そんな悲恋の舞台となる鈴ヶ森刑場は、現在の品川駅からは5km弱の場所。現代人の感覚からすると車とか自転車、もしくは公共交通機関を使いたい距離だけど、伊織くんはその範囲をラフに走り回っています。さすがはぶらりまち歩きの旅人。

 旅番組って同じエリアでもけっこう離れたスポットを紹介していたりして、じつはすごい距離を歩き回っている(と信じましょう)ことがありますよね、あれです(違う)。

高尾太夫は現在“会える神様”に

 『サムレム』でバーサーカーのマスターとして登場する高尾太夫。高尾太夫というのは本名ではなく、吉原の太夫の筆頭ともいえる源氏名のこと。

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高尾太夫(左)。

 もっとも名前の知られている高尾太夫は、仙台高尾や万治高尾という別名がある
2代目高尾太夫です。

 吉原遊郭は最初は1617年に日本橋葺屋町(現在の日本橋人形町)に作られましたが、明暦の大火(1657年)で焼失。浅草寺裏手に位置する浅草三谷村に移転しています。

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『サムレム』世界の地図。

 現在の地図とは地形が違いますが、浅草や鳥越神社との位置関係を見ると、この吉原は“旧吉原”の場所に位置しているのでしょう。

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吉原の夜はギラギラです。

 中央区日本橋箱崎町には、この2代目高尾太夫の頭蓋骨を祭神にしているとされる“高尾稲荷神社”が現存しているので、行ってみることにしました。

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高尾稲荷社。

 リアルの高尾稲荷は鳥居が鉄骨の、現代的なかっこいい神社になっていました。

 太夫というのは吉原の遊女の中でも最上級であったことを表します。さぞや社もギラギラしているのでは……と勝手な想像をしていたので、いい意味で裏切られました。華美すぎない、どこか無骨なかっこよさにセンスのよさを感じます。

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手水が酒樽だ! なんとなくイメージの吉原っぽい?

 手水の「一酌わ百薬の長」。いい言葉です。

 ちなみに高尾稲荷は全国的にも珍しい、実在した人物(高尾太夫)の頭蓋骨を祀る神社です。そのため、頭痛や薄毛といった、頭にまつわる願いごとにもご利益があるといわれているのだとか。

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説明板の高尾(万治高尾)。

 現実の2代目高尾太夫は非業の死を遂げた人物として伝わりますが、『サムレム』の高尾太夫は吉原の女たちを救おうと奮起します。盈月の儀をめぐる戦いに巻き込まれるマスターとして描かれる、高尾太夫のifが胸に染みます……。
 
 高尾稲荷の近くには末廣神社という神社もあります。

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訪問時は七福神めぐりの参拝客で大にぎわいでした。

 こちらはつまり、旧吉原をお護りする土地の神様として信仰されていた神社です。末廣神社もいっしょに参拝したことで、かつてこの辺りにあった吉原に思いを馳せることができました。

ゲームで行って、現実にも行って、2度楽しい

 こうして調べてみると、『サムレム』世界の江戸は、舞台の時代よりも後の姿で再現されていることが多かったです。そしてその分、江戸時代の江戸近辺の象徴的な風景が、いいとこ取りでぎゅっと詰まっているように感じました。

 今回紹介したのは東京ばかりですが、川崎や玉縄(鎌倉)、神奈川港に横須賀と、神奈川近辺もよく出てきます。

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鎌倉大仏(玉縄)を拝観する伊織くん。


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ちなみに玉縄エリアは紫陽花の季節です。よくわかってらっしゃる!!

 ゲーム内で歩いて、気になったことを調べて、さらに実際に行くと発見があり、無限に楽しめる……!

 歴史って現代につながっているんだなということを改めて感じさせられました。アクションゲームで。

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ゲームでは犬や猫もモフれるし最高~!(ワンちゃんたいへんなことになっているな)

 まち歩きばかりしているようだけど、もちろんゲーム本編もしっかり楽しんでいます。分岐によって異なるストーリーが用意されており、まち歩きにもやりこみ要素あり、そして追加DLC……時間が溶けていきます。

 『Fate』シリーズ好きの人はもちろん楽しいけど、シリーズにはじめて触れるのがこれという方にもおすすめです。

 何度歩いても発見がある、
『サムレム』世界に伊織くんたちと旅立ってみてはいかがでしょうか!

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