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esportsの従来スポーツ化の流れの先にあるものは……ゲームのIPは“シェアされるもの”になる?【GDC 2018】

 アメリカ・サンフランシスコにて、2018年3月19日から23日まで行われる、ゲームクリエイター向けの世界最大規模のカンファレンス、“GDC(ゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス)2018”。

 会期初日となる3月19日に、esportsのセッションを集めた“Esports Day”のひとつとして、“Esports Day: Crossing Over: Traditional Sports Come to Esports”との講演が行われた。“クロスオーバー:従来のスポーツとesportsの邂逅”とでも翻訳すべき本講演は、スポーツチャンネルESPN Esportsのシニアエディター、ライアン・ガーファット氏が、esportsは今後、従来のスポーツ的に変化せざるを得ないのではないかということを語ったもの。ガーファット氏は、先日とあるイベントで従来のスポーツチームのオーナーにしてesportsチームのオーナーの話をしたそうだが、そのときに感じた「好むと好まざるとに関わらず、今後こうなるのは避けられないのではないか」という流れを、いわばチームオーナーの代弁者として語ったセッションとなる。

ESPN Esportsのシニアエディター、ライアン・ガーファット氏。

 ガーファット氏がセッションの冒頭で流したのは、ふたりのチームオーナーがとある放送で発したIP(知的財産)に関する映像。まずはニューイングランド・ペイトリオッツとニューイングランド・レボリューション、そして『オーバーウォッチ』のプロチーム、Boston Uprisingを所有しているジェニファー・フェローン氏は、「もともとNFL発足前からアメリカンフットボールは存在していたし、それはほかのメジャースポーツでも同じ。一方で、ゲームのIPはパブリッシャーが保持しています。今後はIPに関して時間をかけて協業的なしくみに移り、IPがチームの一部となるようになるべきだと思う」とコメントしているのだ。リーグが発展していけば、ファンはチームやプレイヤーを応援するわけで、ある意味では“リーグを応援する”わけではなくなる。「今後のIP保護の形は、長期的にはいまよりも“シェアされるもの”となり、チームオーナーなスポンサー、パートナーとともに持つものになると思う」との見通しをフェローン氏は語った。

 IPがパブリッシャーのものではなくなりシェアされるというのはなかなかに衝撃的だが、それに対して映像ではゴールデンステート・ウォリアーズのトップにして、GSW Sports Venturesバイスプレジデント、そして『リーグ・オブ・レジェンド』のプロチームGolden GuardiansとNBA 2K Leagueのプロチームを所有しているカーク・レイコブ氏がフェローン氏の言葉を補足する形で、「そういったIP保有の多様化はシーンを助けることにもなると思う。現在はIPを持つパブリッシャーの意向を聞くだけだけになっているが、今後ブランドとして成長していけば、オーナー側がその変更を突き返すことも可能になるでしょう。いまはあちらからこちらへの一方的なコミュニケーションだけど、我々が“うーん、それってどうなんだろう”って言えるようになるわけです」というのだ。

 この映像を見たガーファット氏は、「極めて明確なメッセージですよね」とひと言。「NFLからの資金提供を望むならば、彼らを開発者チームの席に加える必要があるということなんです」と。

 プロesportsチームのブランド力が大きくなれば、従来のスポーツチームのオーナーにしてesportsのプロチームを所有しているオーナーは、「もっとこちらの声を聞いてほしい」というスタンスになっていく。従来のスポーツチームのオーナーは、やがてはesportsも自分たちが慣れ親しんできた仕組みになるだろうと、考えているという。たとえば、『オーバーウォッチ』にしても地元チームを作るというアイデアは過去に成功しており、『オーバーウォッチ』のキャラクターを知らない人でもBoston Uprisingは知っている人が多い。それだけブランドになるわけで、ゲームを知らない人でも巻き込めるというわけだ。

 収益についてもスポーツチームのオーナーには考えるところがあるようだ。これまでesportsは収益をあげることは考えておらず、ゲームのプロモーションツール的な側面が強かったが、これからは変わっていくのではないかと、ガーファット氏は見ている。「従来のスポーツチームのオーナーは収益を上げたい、少なくとも収支プラスマイナスゼロまでは持っていきたいと思っています」とガーファット氏。ちなみに、ガーファット氏によると『NBA 2K』は、規模は小さいかもしれないけれど、もしかしたら最初に収益を上げるようになるゲームかもしれないと見ている。従来のスポーツチームの作法に則って、スタジアムのネーミングライツや縦幕などの広告料で動いているチームもすでにあるという。

 「従来のスポーツチームのオーナーは、意見を述べたいのです」とガーファット氏は断言する。たとえば、一般的なスポーツには競技委員会がある。毎年全チームにアンケートを取り、ルールから待遇まで詳細なデータを取り、オーナーが集い提案を出す。つまりルールに意見をする席が設けられるのだ。それと同じ場が設けられることを従来のスポーツチームのオーナーは想定している。組合やプレイヤーが決断に参加する。これは従来のスポーツにとっては当たり前のことだ。チームやブランドが大きくなるにつれ、ゲームのアップデートや新キャラクター、ナーフ(アップデートにより弱体化されること)について、もっと口出ししたくなるというわけだ。たとえば、オーナーが巨額の投資をして名プレイヤーを獲得したとして、そのプレイヤーが使用しているキャラクターにナーフが来たら、その投資は無意味になってしまう。「なぜ、そのナーフが必要なのか、説明がほしい」となるのは不可避だ。

 また、従来のスポーツチームのノウハウを持つ人材を招き入れることは、マーケティング戦略やスポンサーも一変させるだろうとガーファット氏は分析する。プロesportsチームのTeam Dignitasは、かつてTシャツしか販売していなかったのだが、その後マーケティングチームが入って契約を変更し、ジャージなどをしっかり作ってブランディングに貢献したという。「今回、『リーグ・オブ・レジェンド』のフランチャイズ化にともない、大手チームは3000万ドルで参加権を買っています。大金持ちなら大したことない金額だと思うかもしれませんが、巨額であることに変わりはありません。当然、この投資に見合う“何か”は求めます。それは、ある種の非営利的行為(ファンに向けた取り組み)である場合もありますが、ブランド戦略だったりもします」とガーファット氏。

 最後にガーファット氏は、「基本的に、従来スポーツのチームはいいパートナーです。ただし、彼らはゲームの所有権は持っていません。アメリカンフットボールとの違いは、アメリカンフットボールの所有権は誰も持っていないところです。だからこそ、彼らをフェアに扱うことが重要になるのです。自分のタイトルに彼らを招き入れたいのなら、この部分が重要になるのは間違いありません」とコメントし、講演を締めくくった。

 講演のあとには、Q&Aが行われたので、その中からいくつかのやりとりをご紹介していこう。

Q.esportsは億万長者なしでやっていく方法ないのですか?
ガーファット 別に競技はお金なくてもみんな競技的に遊びますよね。でも大舞台が必要ならば億万長者がいります。『リーグ・オブ・レジェンド』がフランチャイズに移行したのも、それが理由ではないかと。もちろん、億万長者なしにできるゲームもあります。PCメーカーや周辺機器メーカーは、今後もスポンサーになるでしょうし。

Q.スポーツ的な流れになれば、スカウトとかドラフトとかそういうのも従来スポーツ的になると思いますか?
ガーファット もちろんそうなると思います。『NBA 2K』とかは、たしか4月4日にドラフトやるはずです。最低年俸やスカウト、契約の見直し起こるでしょうね。“esportsの従来スポーツ化”は必ず起きると思います。

Q.ESPNはやっていますが、ほかのチャンネルがもっとesportsを放送する話はないのですか?
ガーファット 個人的にはもっとやってほしいと思っているんですが、動きは鈍いですね。Yahoo!がやめたことはESPNにも悪影響がありました。ほかのメディアが参入を避けるようになってしまいましたし。いろいろな切り口があると思っているので、多様性があるのはいいことです。その点で、従来メディアのほうが親和性が高そうですね。USA Todayはいまや『オーバーウォッチ』のコーナーもありますし。取り上げるメディアは多ければ多いほどいいと思っているので、今後は増えてほしいです。物語を語ってくれる場所が増えるのは、シーンにとって望ましいことです。品質も上がりますし。

Q.従来のスポーツは誰にも所有されていないけど、ゲームはパブリッシャーが所有しています。パブリッシャーやデベロッパーは権利の一部を販売するとか、そういうことをしないといけなくなるのでしょうか?
ガーファット 何らかの形で変わるとは思います。どこかが買うということは可能ではないかと。話を聞いてくれないとなれば買うところは出てくると思いますね。さすがに大きなIPを買うというわけにはいかないかもしれませんが、出てきたばかりのタイトルならば、青田買い的に「もういいから買う!」ということになるんじゃないかな。

Q.開発者としてはIPは絶対王者だと思っています。たとえば『オーバーウォッチ』でゲンジをNerfするとしたら、チームオーナーのためじゃなくて、ゲームの改善のためなわけだし。これはあくまで僕の意見ですが……。
ガーファット 同意します。今回私が言ったことはきびしい話だと思います。ただ、お金を払っている人が、「ブランドとして大きくなったら、バランスは変わるのではないか……」という話ですから。

 アメリカでプロスポーツのオーナーがesportsチームを持つ傾向があるのは、スポーツチームとしての親和性の高さゆえであろうか。アメリカの流れが一概に日本にも当てはまるとは言えないが、ゲームIPの流れについては、極めて興味深いものがある。いろいろな産業を巻き込んで、さらに大きくなっていこうとしているesportsの今後の可能性と課題がうかがるセッションとなった。

■取材協力/矢澤竜太

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