マルチプレイやゲーム実況において人気を獲得している『ロケットリーグ』。Nintendo Switch版、Xbox One版、Steam版のユーザーと対戦できるクロスプラットフォームに対応し、賞金総額1億円規模の大会も開催されている。
2015年7月のローンチ以来、海外ではこれまでに約6億円の賞金がesports市場で動いている。さらに、東京で2500万円をかけて決勝を行う‟Intel World Open In Tokyo 2020”の競技種目にも選ばれている。
そんな『ロケットリーグ』部門を有する国内のesportsチーム‟HANAGUMI”のオーナー中野氏、同部門でキャプテンを務めるMaru選手にインタビューを敢行。今後のチームの動向や『ロケットリーグ』の行く末について聞いた。
世界から愛されるチームを目指して
‟HANAGUMI”とは、『PUBG』部門、『ロケットリーグ』部門、ファイティングゲーム部門、ストリーマーを多数抱えるesportsチームだ。名前の由来は‟花(ひまわり)”で、チームという軸を中心に、選手たちが花を咲かせてほしいという願いが込められているとのこと。
スポンサー締結、グッズ制作をはじめ、選手獲得や育成に力を入れ、世界を目指し戦うHANAGUMI。今回は、『ロケットリーグ』が‟Intel World Open In Tokyo 2020”で正式種目化されたことを受け、国内大規模リーグ‟PRIMAL”や数々の大会で上位に位置づけている、同チーム『ロケットリーグ』部門所属の‟Maru選手”に話を聞いた。また、同チームのオーナーである中野氏にもチームが目指すものを語ってもらった。
中野氏「応援したくなる選手に育成していくことはとても大事」

――まずは、自己紹介としてゲーム遍歴を教えてください。
中野氏(以降敬称略) オンラインゲームだと、MMORPG『ラグナロクオンライン』からですね。最も長くプレイして、ハマり方もすごかったゲームは『サドンアタック』でした。いまで言うところの‟esports感”というか、ただの撃ち合いではない、戦術とかチームワーク、MAPや投げ物の研究といったところに魅力を感じていました。『コードネーム スティング』というFPSも、かなり真剣にプレイしていたタイトルの一つでしたね。
ただ、ゲーム以外のプライベートが忙しくなってきたこともあり、しばらくゲームから離れる時期があって。オンラインゲームには『オーバーウォッチ』がローンチされたぐらいに戻ってきました。
――esportsに興味を持たれたのは、どのタイトルでしょうか?
中野 『オーバーウォッチ』ですね。esportsシーンの盛り上がりを肌で体感して、これは戻ってくるべきだろうと。
――そこから‟HANAGUMI”のオーナーまで至る訳ですが、どういった経緯があったのでしょうか。
中野 HANAGUMIがメンバーを募集していて、知り合い伝いに一般応募者として応募し、チームに加入しました。エンジニア系の仕事をしていることもあり、当初はデータアナリストを目指して加入しました。その後、チーム活動を通じて運営にも携わるようになり、紆余曲折もありつつ今ではオーナーになりました。
――普段は会社勤めをされているんですよね。二足のわらじを履いているのは、大変だと思います。
中野 もちろん大変ですが、気づいたら両立していましたね。最初はきつかったかもしれませんが、熱量を持ってやっているうちに、あまり感じなくなりました。
――いま、マネジメントもされていますよね。選手の募集も見かけましたが、選ぶ基準はあったりするんでしょうか。
中野 プロチームとしてスポンサー様だけではなく、さまざまな方がHANAGUMIを応援してくださっています。なので、絶対的に重要視するのは、スキルよりも人間性、社会性を見ていますね。事前調査を行なった後、この人なら大丈夫そうだと思ったら、直接面接して採用しております。
「スキルよりも人間性」とはいえプロチームですので、当然のこととして結果や実績を残していかなければなりません。ですのでその側面も考慮して、結果を残せるに足る実力があるかどうか、やる気、今後の目指す場所などを面談で聞いています。最低限のスキルを備えていないと感じたら、面談前にお断りしている場合も多いです。
昔と比べて最近ではゲーマーも露出が増えてきていますし、応援してくれるファンの方々、スポンサー様の目線を考えても、総合的に応援したくなる選手に育成していくことが大事だと思っています。
――次に、いくつかのゲームに展開し、ストリーマーも擁していますが、その背景をお伺いさせてください。
中野 HANAGUMIの前身である『バトルフィールド』のチーム(Hello everyone)が、大会でも良い成績を残していたんですね。ありがたいことに上位常連と評価していただいていたタイミングで、2016年に『オーバーウォッチ』がローンチされ、そこに色んなFPSのゲームから選手が集まっていく様子を見ていたんです。
各界隈で名の売れた腕利きのプレイヤー達が一同に集まる『オーバーウォッチ』はかなりインパクトが強くて、今後は、違うゲームにも展開して実績を作りたいと考えました。チームにも基盤がありましたし、『オーバーウォッチ』部門も開設した結果、マルチゲーミングになったという経緯があります。
当然、チームという視点で見ればビジネス的な戦略、気持ちもあったりしましたが(笑)
――その中でも『ロケットリーグ』は、Intel World Open In Tokyo 2020の開催が決定しています。こうした大会も含めて、今後のビジョンをお聞かせください。
中野 日本と海外では、プレイヤー数やTwitchなどの視聴者数を見ていても、少し乖離があると感じています。あえて言葉を選ばずに言うと、国内の大手esportsチームが参入しておらず、盛り上がっていくのに必要な土壌が海外と比較してまだ弱いかなと。
しかし、『ロケットリーグ』というタイトル自体に目を向けてみると、シンプルかつ分かりやすく、ゲームを知らない人でもスーパープレイが直感的に分かるんですよね。そういう意味では稀有なタイトルでもありますし、esportsとして盛り上がっていくべきタイトルだと捉えています。ただ、先ほどもお話しましたが、海外と比較すると温度感の違いもある、というのが率直なイメージです。

――海外の大会のレポートを見ていると、会場が満席だったりして、その‟温度感”が現れているのが分かりました。
中野 温度感に関連して、認知度の違いもあると思います。名前は知っているけど、プレイしたことのない、観戦したことのない方も多くいらっしゃるのではないかと。ですが、現在はクロスプラットフォームに対応していますし、今後は大きな大会も控えているので、人口増加の期待値は大きいと思っています。
――Intel World Open In Tokyo 2020はPC版ですが、選手の皆さんは、PCでキーボードとマウスを用いてプレイされているのでしょうか。
中野 HANAGUMIの選手が使用しているのはPCなんですが、コントローラーでプレイしています。ここに『ロケットリーグ』の特異性があります。技術的な面でキーボード・マウスよりもコントローラーの方が微調整が効きやすい、という意見をよく耳にします。
――勝手ですが、キーボード・マウスでプレイしていらっしゃるイメージを持っていました。
中野 具体的に調べたわけではないですが、プロ選手で言うと全体の割合でもコントローラーが大半を占めていると思いますね。細かい操作や、自分の感覚を突き詰めていくと、コントローラーに行きつくのかなと。
――続いて、国外では1億円規模の大会が開催されています。海外への展望をお伺いできますでしょうか。
中野 HANAGUMIはチーム結成時から、「海外で勝てるチームを作りたい」という信念があります。これは、『ロケットリーグ』も全く同じで選手と共有していています。選手もその目標に向かって練習しています。
――日本から海外大会に出場するハードルは、どれぐらい高いのでしょうか。
中野 海外チームと比べたスキルのギャップは選手の方が詳しいですが、僕から見ても、プレイスタイル、個人技の差はまだ感じますね……。海外のトップ選手は、見ていて本当に上手いなと感嘆してしまいます。
そして同時に、世界に挑戦し結果を残すには、まだまだトレーニングの必要があるとも感じます。海外のトップチームと比較してしまうと、技術と連携術の差だけではなく、環境面や練習量・質の違いも当然ながらありますので、ハードルは相当高いですが、今はトップチームの背中を必死に追いかけて行かなきゃいけない時期だと思っています。
――国内だと、コミュニティーの熱量が高いと感じています。大会数も多いですし、運営もしっかりされている印象があります。
中野
コミュニティーについては、本当に同意見ですね。熱量も高くて、すごく温かい方が多いですね。HANAGUMIが突然参入した際も、チームの事を知らない方でも温かく応援してくださるし、それが目に見えて分かるんですよ。しかも、うちが何かやりたいと言ったときに、相談に乗ってくれて、協力してくださる方もいらっしゃって。HANAGUMIがここまで歩みを進められたのは、長年国内ロケットリーグを支えてこられたコミュニティーがあってこそなんですよ。
なので、HANAGUMIとしてもコミュニティーに貢献・恩返しということ、『ロケットリーグ』を盛り上げるには、コミュニティーに還元するにはどうすればいいか、ということを日々考えています。
実際に行なっている取り組みもありますね。まだ学校名は出せませんが、とある学校法人様と提携してここ数ヶ月の間に定期的なコーチングをしており、その受講生たちは‟全国高校生eスポーツ選手権”でも勝ち進んでくれました。そうした次の世代を育てる施策もしております。加えて、イベントへの出演など、選手の露出にも注力しています。
――大会に出場されているだけでなく、次世代のプロプレイヤー育成にも取り組まれているんですね。
中野 まずは『ロケットリーグ』を広げること。そして、その中にHANAGUMIが、強い選手がいることが理想だなと思っています。
さらにワンステップ踏み込んで、自分たちでイベントを主催することを企画しています。詳細のアナウンスはまだですが、予定では11月にHANAGUMI主催でイベントを行ないます。第1回目のフィードバック次第で、その後少なくとも1年間は継続していきたいと思っています。
――まさしく、『ロケットリーグ』シーンを盛り上げる企画の第一歩という訳ですね。
中野 盛り上げていくことも至上命題ですが、例えば日本の選手やチームがもっと強くなったとき、海外に渡航するとなると、それなりに費用も必要になります。その時にスポンサードを考えてくださっている企業さんが支援しやすい、支援したくなる環境づくりを今から始めていきたいと思っています。
――コミュニティーを盛り上げ、次世代の育成も行う、esportsチームの鑑のような姿勢だと感じました。それでは、最後にチーム‟HANAGUMI”全体の目標をお願いします。
中野 esportsチームは世界中にありますが、世界のどこでも認知されているような強大なチームもあります。最終的な目標としては、そういったチームと比較としても、強さやブランディングで引けを取らないくらいに成長したいです。
そこに至るまでには、たくさんの壁を乗り越えなければなりませんが、応援してくださるファンや関係者の皆様、支えてくださっているコミュニティーの皆様の期待に答えていけるよう、これからも努力していきます。そして、「日本のesportsチームと言えば、HANAGUMI」と言われるチームを作っていきたいですね。強さだけでなく、選手のパーソナリティーを含めて、心から応援したくなるチームに仕上げていきたいと考えています。
個人的には、チームのラッピングバスを作って大会に乗り込んでやりたいという夢もあります(笑)そんなことをやっても恥ずかしくないチームにしたいですね。
Maru選手 ― PSストアのフリープレイからプロチームへ

――では、簡単にゲーム遍歴と、どのタイトルでesportsに興味を持たれたかをお聞かせください。
Maru選手(以降敬称略) 小学生くらいから『マリオ』シリーズ、『ドラゴンクエスト』をプレイしていました。小学校~高校でサッカーもしていて、『ウイニングイレブン』を夜中までやるくらいハマっていました(笑)
『ロケットリーグ』は、高校1年生の頃にはじめたんですが、それまでゲームは一人でやるものだと思っていたんです。オンラインで対戦していて、名前の横に何かマークが付いていたんですが、それがどういうものかも分からなくて。みんな一人でやってると思い込んでいたので、そのマークがパーティのだと知った時は驚きました(笑)
プレイステーション4ではその後、高校の友達と『レインボーシックスシージ』や『フォートナイト』をいっしょに遊んでいました。
――『ロケットリーグ』は、PCでやってらっしゃるんですか?
Maru 最初はプレイステーション4でした。去年の8月にPCへ移行したんですが、PCの方が環境的にやりやすくて。それをきっかけに、『ロケットリーグ』をさらにやり込むようになりました。
やり込む中で、esportsに興味を持って大会にも出たりしていましたね。大会で勝った時の嬉しさを味わって、esportsというものを実感しました。
――大会を通じてesportsというものを体感したんですね。HANAGUMIに入るきっかけは、どんなものだったのでしょうか。
Maru プロにはずっとなりたいと思っていたんです。
同じくHANAGUMIに所属しているRaqua選手から新しいチームに誘ってもらいました。その後、新チーム結成から1ヶ月くらいでHANAGUMIから声を掛けてもらったので、そのチームごと加入しました。今のメンバーは、その当時から少し変わっていますが。
――現在、学生とプロプレイヤーを両立しキャプテンも務めていらっしゃるとのことですが、大変じゃないですか?
Maru そこまでではないですね。休みの日だと8時間くらい練習できますし、平日の忙しい時でも、30分~1時間は必ずコントローラーに触るように意識しています。
――話が遡ってしまい恐縮なのですが、サッカーをしていらっしゃったからこそ、『ロケットリーグ』に惹かれたという側面もあるのでしょうか。
Maru サッカーの要素があったから、やり込んでいたんだとも思います。
YouTubeで車でサッカーをするというようなゲーム動画を見て、すごく面白そうだと感じ調べてみたら、ちょうどPSストアのフリープレイに並んでいたんですよ。期限まで残り数日のときに出会って、無料ならやってみるか程度で始めました。
――そこからプロチームに道が続いていた、というのは運命的な何かを感じますね。
Maru そうですね(笑)

――練習相手の募集はどうされているのでしょう。『ロケットリーグ』コミュニティーのDiscordサーバーもありますよね。
Maru
これまではDiscordはあまり使っていませんでしたが、直近でスクリム(チーム同士の練習試合)に参加するために使い始めました。これまで使用していたのは主にTwitterで、ダイレクトメッセージを送って相手を探していましたね。日本国内では中々相手が見つからず、中国や韓国などアジアのプレイヤーを中心に練習することが多いです。
――チーム全体の雰囲気はいかがですか。チームメイトとご飯に行かれたりされてたツイートをお見かけしました。
Maru やっぱり、仲が悪かったらプレイも上手くいかないですからね。とくに、Mikanさんは近くに住んでいることもあって、何度かご飯に行ったりしています。Mikanさん、ばとるれいんさん、僕のスタメン3人は、すごく雰囲気もいいですし、何より楽しくやれてますね。
ばとるれいんさんは遠方に住んでいらっしゃるので、大会の時にしか会えないんですが、その時が楽しみですね。
――続いて、esports市場についてお伺いしたいと思います。選手から見て、いまの国内の動きはどう映ってますか?
Maru ここ1年で大きな大会もありましたし、この流れで『ロケットリーグ』が盛り上がっていけばと思っています。
でも国内では、プレイヤー人口もチームもまだまだ少ないんですよね。国内のチームだけで海外と同じような規模感の大会ができるようになると嬉しいです。
――Intel World Open 2020も控えていますが、海外への挑戦を視野に入れたとき、日本のチームはどんなことをしなければならないのでしょうか。
Maru まずは、アジアで行われている大会への参加だと思います。現在も出場はしていますし、継続していきたいと考えています。今後は、範囲を広げてオセアニアの大会もですし、それ以上の大会にも参加したいです。
というのも、海外選手とのスキル差を感じていますし、その差を少しでも埋めたいという気持ちがあるからです。ヨーロッパの選手たちと戦う機会はほとんどないですし、Intel World Openの本戦に出るためにも、チームで練習して実力を底上げしていきたいです。
それに、開催国枠もあると聞いているので、非現実的なことではないと感じていますし、絶対に挑戦していきたいです。
――数年後には就活も控えていますよね。少し前と比べても、esports関連の職業選択の幅は広がっていると思います。Maru選手は、今後どんなキャリアを描いていらっしゃるのでしょうか。
Maru 将来は……。いまは、学生だから練習量が確保できている側面もありますが、就職したらそうはいかないと分かっています。
なので、就職するまではプロと学生を両立して、仕事を始めてからは、プロとしてではないですが、大会には出場していきたいと思っています。プロはやめてしまってるかもしれませんが、コミュニティー大会にはずっと出続けたいです。
この先どうなるかは分かりませんが、‟DreamHack”に出たいんです。
――『ロケットリーグ』のオープン大会も開かれてましたね。
Maru 現地に行った選手から感想を聞いたら、そんなにスキルの差に絶望することはなかったと言っていました。まぁ、その人が上手いというのもあるんですが(笑)
大会はもちろん、会場や近くにesportsカフェのようなところでスクリムもやっていたらしく、そこで有名なチームと練習したみたいなんですよ。それが羨ましくて。ぜひ、HANAGUMIとしても、参加できればいいなと思っています。
――そういった海外の様子や熱量を伝える人も重要ですね。最後になりますが、Maruさんの目標を教えてください。
Maru まずは、DreamHackに行きたいです。本場の空気に触れて、選手と練習もしてみたいです。選手としては、レートのトップ100に載りたいですね。
――掲載されるレートのトップになるということですかね?
Maru そうですね!(笑)いつか、RLCS(ロケットリーグチャンピオンシップシリーズ)のアジア代表になれるよう、これからも練習していきます。
――言わせてしまったようですみません(笑)本日は、お時間をくださりありがとうございました。