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【鉄拳7】シーン盛り上げ役“黒黒”氏が語る「Ash組手」実現までの軌跡と苦悩

鉄拳シーンに彗星の如く現れたプレイヤー「Arslan_Ash」。2019年2月に行われた“EVO Japan 2019”に出場し、並み居る強豪プレイヤーを全て倒し優勝。パキスタンという異国の地であることと、今まで知られていなかったプレイヤーであることからそのインパクトはすさまじく、一躍時の人となった。

それから少し空いたゴールデンウィーク。Ashは再び来日し、今度は多くの強豪プレイヤーと「10先組手」を行なった。その模様はライブ配信され、中でも鉄拳最強と名高い「Knee」との死闘は筆舌に尽くし難いものだった。

企画実施におけるAshの渡航費や滞在費はクラウドファンディングで集められ、募集期間一ヶ月のところ、なんと6日で目標金額を達成。その結果はAshの注目度の高さを物語っていた。

そんな鉄拳シーンを熱狂の渦に巻き込んだ「Ash組手」。しかしその実現にはビザの発行や国際情勢による飛行機の欠航など多くのトラブルがあり、それらを「鉄拳愛」で乗り越えて実現したものだった。

今回ファミ通では、企画仕掛け人である「黒黒」氏に独占インタビュー。企画立ち上げのきっかけから開催までの苦労、企画実現にかけた想いなどその全てを振り返ってもらった。

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黒黒氏

黒黒Twitter
黒黒Twitch

企画立ち上げのきっかけ

「“KVO”にAsh呼べないかな?ってのが始まりです。」

――Ash組手の企画を立ち上げるに至ったきっかけや経緯はなんだったんですか?

黒黒 “KVO”という関西最大級の格闘ゲームイベントの主催を務めるキャメイさんから、「鉄拳部門にAshを呼べないかな?」と提案されたのがきっかけです。僕はKVOで鉄拳部門の運営を任されていて、EVO Japanの時にAshのフォローをしたり、連絡を取り合っていたこともあるポジションでした。過去には、鉄拳世界最強プレイヤーである“Knee”を招致して組手企画を行ったことがあったんですよ。

“KVO”は4日間のイベントだったんですが、鉄拳は初日だけだったので、2日目以降はライブ配信しながら「Ash組手」を行おうっていう話になったんです。

パキスタンから日本に来るのは簡単ではないと考えていたんですが、

「渡航費や滞在費をクラウドファンディングで集めましょう!」
「Ashが日本に来るのは難しいことじゃないみたいですよ!」

と、キャメイさんから提案してもらったので「呼べるなら呼ぼう!」ということで企画を立ち上げることにしました。そして、クラウドファンディングサイトで資金を募集したところ、すぐに目標金額に達しました。

その結果を経てAshに連絡を取ったら、「え、日本に行くためのビザ取得は、そんなに簡単な話じゃないよ?」と言われちゃったんですよ。英語でのやり取りでキャメイさんの受け取り方が軽かったみたいで……もうお金は集まってしまっていましたし、今まで多くのイベントを運営してきて中止にしたことがなかったので、「なんとか実現させないと」っていうところから実現までの長い苦労が始まりました……。

 

来日までの数々のトラブル

※黒黒さんが利用したクラウドファンデイングサイトはこちら

こちらで黒黒氏が報告している通り、Ashはすんなりと来日できたわけではなかった。

概要は
・日本入国のために行政書士にビザの発行を依頼。
 →期日までに余裕がなく、ビザが発行されるかわからない状態でチケットを準備しなければならなかった。

・ビザは無事発行されるものの、搭乗を予定していた航空機が国際情勢により欠航(航空券購入1回目)。
 →事前に把握ができず、Ashが当日空港に着いてから発覚。この時点で日本への渡航が困難に。

・急遽パキスタン国内南部にあるカラチへの移動を前提とした、別の空港からのチケットを買い直して日本への経路を確保。
・今度は、帰りのチケットを証明できないという理由で飛行機の搭乗を拒否される(2回目の航空券購入とキャンセル)

 →クラウドファンディングで集めた資金だったため、当初予定の飛行機、ホテルなどのキャンセル手続きにも奔走

・3回目の航空券購入でやっと日本に向けて出発することができた。

といった流れであった。

「期待」を裏切りたくなかったから、プライベートを全て投げ打った

ーーAshの来日には数多くのトラブルがありましたが、それらを乗り越えられたのはなぜでしょうか?

黒黒 クラウドファンディングで始めた企画ですから、そこに支援してくれた人たちの「期待を裏切りたくない」って気持ちが強かったですね。僕としては予定よりお金がかかる分には自腹でもいいくらいだったんですよ。

ですので、自分自身ができることはプライベートを投げ打ってでもすべてやりました。それでも自分だけの力だけでは及ばない状況でだったので、最終的に「実現できるかどうかわからない」っていうのは大変でしたね。そのせいでずっと心労が続いていて、白髪が増えました(笑)

――来日までのトラブルで一番大変だったエピソードを教えてください。

黒黒 Ashから「飛行機が飛ばない」って連絡があった時点っていうのは、こっちはKVOの運営準備が終わった5月1日〜2日にかけての深夜だったんです。あと数時間したら大会設営があるので車で休んでいたら、Ashから連絡があったんですが当初は「少し遅れてるくらいでしょ?」という軽いノリだったんですよ。でも詳しく聞いていくと事態は深刻でした。

飛行機のキャンセルをするにも英語かタイ語じゃないとダメで、すぐにタイの鉄拳プレイヤーに連絡を取って手伝ってもらったんです。そんなこんなしていたら朝を迎えてしまって僕はKVOの運営準備をしなければいけませんでした。準備をしている間にも、大会に出場するプレイヤーから「Ash来るんでしょ?!楽しみだよね」、「Ash対Kneeとか絶対すごいよね!」と聞こえてきたんですよね。その「Ashへの期待」と「渡航問題」の板挟みになっていた時が心情的に一番辛い時でした。

 

組手企画の実現

そんな数多くのトラブルがあったものの、予定より2日遅れでAshが来日。当初予定していたKVOへの参加は出来なかったものの、5月5日に念願の組手が実現。その結果は圧巻の一言。日本勢を全員打ち破り、Kneeとの対戦もイーブン以上の試合を繰り広げた。

「他が真似できないことができる」というプレイをみんなに見てもらうことで、Ashを認めざるを得ない状況に出来た。

ーー組手の結果から見るとAshと日本プレイヤーとの間はかなりの差があるように思えましたが、実際のところとしてはどうなんでしょうか?

黒黒 ほかのプレイヤーと“ステージ”が違いますよね。Ash、Knee、JDCRは日本プレイヤーとは違うひとつ上のステージにいる存在です。我々が「出来ない」って思っているレベルのプレイを実行しているんですよね。これはコミュニティーが強い日本だからかもしれませんが、上位のプレイヤーが「これは見えない」と言うと、それを信じてしまうんですよね。まわりがそれに倣って攻略を進めるから、Ashみたいな何万人かに一人だけ「1フレーム早く見えるプレイヤー」がいても、「そんなはずはない!」という風になっちゃうんですよ。だから、Ashみたいな「他が真似できないことができる」っていうプレイをみんなに見てもらうことで、個人個人で鉄拳の攻略方法は違うということを認めざるを得ない状況に出来たのは良かったです。

あのKneeが「真面目な鉄拳では勝てない」と言うのはとても重いことなんです。

ーー今回の組手企画では鉄拳プレイヤー全員が期待していたといっても過言ではないAsh対Kneeが実現しました。間近で対戦を見た感想はいかがでしたか?

黒黒 初日は勝ち負けの結果だけだと「1対1」のイーブンなんですが、カウントを見ると1回目は10対8でKneeが勝ったんですが、2回目の10先は3対10でAshが圧倒的な勝利だったんですよね。2回目の10先でKneeが負けた後、配信席で対戦の内容を韓国語で話をしたんですが、後日翻訳を確認したところ、

「Ashには真面目な鉄拳では勝てない」といKneeが言っていたんです。

今まで真面目な鉄拳しかしてこなくて「マシーン」って呼ばれるプレイヤーが、そんなことを言うのはものスゴく重いことなんですよ!

ーーAshの来日が遅れてしまった際に、急遽Kneeが代わりに組手を行ってくれたことがすごいカッコよかったです。

黒黒 Kneeは鉄拳最強のプレイヤーでありながら「シーン」のことをすごいよく考えているんです。人柄も良いし、鉄拳への愛も強い。初日の組手が終わった後仲良くご飯を食べていましたが、その後Kneeがずっとコリアンエアラインのサイトをチェックしていたんですよ。そうしたら「帰国を遅らせたからもう一回やらせて欲しい」って言ってきて。

ーーその流れもスゴイですよね。Kneeのプレイヤーとしての「熱さ」を感じさせられます。

黒黒 (本来3回やる予定だった)Ash vs Knee3回目、Ash組手の2日目ではKneeは最後の出番だったんです。Kneeの待ち時間がとても長かったんですが、横でAshの動きをずっと観察していましたね。今までKneeがそういった風に一人の選手を研究するってところを見たことがなかったのですごい印象的でしたね。今回の企画のメインはAshだったわけですが、Ashの強さを見せると同時にKneeの強さも見せることができたことがよかったですね。

 

「Ash対Knee」を目の前にした時、鉄拳人生を集約した「最終回」のようだと思ったんです。

黒黒 あと、対戦内容以前に1度目のAshとKneeの対戦している姿を見て僕はなんかもう言い表せない思いだったんですよ。たくさんのトラブルに対処しながら大会や企画の運営を乗り越えて、ようやくAshが日本に来て、世界最高のプレイヤーであるKneeと対戦する「絵」が目の前にあって、僕の配信で多くの人に視聴されていて……達成感とか充実感でもなくて、「あぁ、これが自分にとっての最終回だな」と思ったんです。

この企画の実現には僕の鉄拳人生における全てが集結したんです。飛行機のチケットのキャンセルをしてくれたタイの鉄拳プレイヤーは、鉄拳7初期の4年前に僕の配信のために来日したのがきっかけで知り合ったプレイヤーでした。EVO JapanでAshのフォローをするきっかけになったのも海外大会で知り合ったインドの鉄拳プレイヤーだったんですよね。ほかにも多くの人が手伝ってくれて、それは僕の今までの鉄拳人生があったからこそなんですよね。それら全てが「Ash組手」のために自然と集約できたっていう展開が漫画やドラマの「最終回」みたいだなって思ったんですよね。

プレイヤーだけでなく視聴者も「参加者」になってほしい

数多くのトラブルや苦労を乗り越えて結果的に大成功を収めた「Ash組手」。インタビューの最後は、鉄拳シーンを「イベンター」という立場から応援し続ける黒黒氏の活動について伺った。

ーー今回クラウドファンディングでイベントの企画をされたのは初めてだと思いますが、実際に企画してみていかがでしたか?

黒黒 とても良かったですね。これからもクラウドファンディングを利用した企画を行おうと思っています。というのも、最近ではライブ配信や動画で強いプレイヤーのプレイを見るのがすごい簡単になったじゃないですか。プレイよりも見ることが主体の「動画勢」の人たちも増えましたよね。

でも便利になった一方で、それらが全て無料で見られるっていうのは先々まで見通したときに決して良いことだけではないと思うんです。今は「eSports」という言葉がトレンドになっていて、色々な企業が参入してたスポンサードしてくれているのでそれでいいかもしれませんが、今後のことを考えるとそれだけじゃダメですよ。

そこからすると、クラウドファンディングっていうのは「Ash対Kneeの試合が見たい!」、「Ashのプレイをもっとたくさん見たい!」と興味を持ってくれた人が自発的にお金を出してくれているわけです。

「価値のある対戦やプレイを見るために他のプレイヤーや視聴者が参加者としてお金を払って実現させる」

そういった考え方を浸透させるために、クラウドファンディングっていうのはちょうど良い仕組みだと思いました。中にはそれを「お金儲けだ!」と考える人もいると思いますが、企画はもちろんのことプレイヤーや大きく見れば業界が成長していくためには、お金をいただけるようにしていくことが大事だと思いますね。今後に繋がって欲しくて、やらなくても良い「レシートの公開」はすべてすると決めてました。

ーー今回の組手企画を参考にして企画を行うような人たちがどんどん増えてくるといいですよね。

黒黒 今後似たような流れで行うこと自体は難しいことではないと思います。ただ、やっぱり興味を持ってもらって投資してもらう訳ですから、ちょっと躓いたくらいで、「思ったより大変だから諦めよう」というようにはなって欲しくないですよね。

クラウドファンディングで格闘ゲームのイベントが企画されたのは今回が初めてだと思います。ですので、最初のたたき台として、「レシートで費用を全て公開すること」を最初から決めていました。これは別にやってもやらなくてもクラウドファンディングのルール的には問題ないんです。

ただ今回は初めて企画をするにあたって今後の参考になるように、「誠実さ」を意識していました。結果的にその意識が多くのトラブルに負けない「絶対に実現させてやる」ってモチベーションにもつながっていたと思います。イベントを主催したい人は、「家に友達を集めて対戦会する」ってところから始めてほしい

ーー黒黒さんは鉄拳のイベント運営を多くされてきたわけですが、そういった立場から見て、今後の鉄拳業界、格闘ゲーム業界、eSports業界の課題っていうのはありますか?

黒黒 繰り返しになりますがまずは見る人も「参加者」になるような形にしていきたいですよね。スポーツ観戦と同じようにお金を出す仕組みを作って、そのお金が正常に流れる。それによって「シーン全体」が活性化していくといいと思います。

ーーシーンを盛り上げるには黒黒さんのようなイベントを企画し運営するような「盛り上げ役」が必要です。同じようにイベントを行なっていきたいっていう人たちにアドバイスはありますか?

黒黒 どんなことにもノウハウってあると思うんです。今ならネットで情報収集も簡単ですからね。そういった先人の経験から学ぶっていうのはまず当然だと思います。それと同時にイベントっていうのはやってみないとわからないことも多い。イベントは絶対トラブルが起きます。その対処法は体験しないと覚えられません。だから、まずは「家に友達を集めて対戦会する」というレベルから始めてみてほしいですよね。まわりの意見に自分の熱意を蓋されないようにしてほしいです。

ーー実際に自分自身で経験することが、なによりも大事なんですね。その他にもポイントはありますか?

黒黒 あと昨今は、「ネットで批評される」とかいうのを気にしてなかなか実行できない人もいると思います。そういった風潮は個人的にも好きではないので、周りの意見に自分の熱意を蓋されないようにしてほしいですね。イベンターっていうのは今後確実に必要な存在だと感じています。ぜひやるべきだと思うので、増えて欲しいと思っています。家の対戦会から徐々に広げていって、「楽しかった。またやってほしい」という声を大事にして続けていって欲しいですね。

黒黒、チクリンがパキスタンへ!

今回インタビューさせていただいた黒黒さんは、プロゲーマーのチクリンを連れてパキスタンへ行く企画を立てている。なんと、現地からチクリンvsパキスタンの猛者たちの試合を配信するというのだ。パキスタンにはAshのほかにも隠れた猛者がいるのか? そんな疑問の答えになることは間違いない企画なので、興味のある人はぜひ↓の黒黒さんのツイートをチェックしてほしい。

 

 

 

記者の目

インタビューを行なった上でわかったことは、黒黒氏は経験豊かなイベンターであるが、今回のAsh組手はその経験を持ってしても「奇跡」のようなものだったということだ。本人が話すように数多くの協力者があったのは当然のこと、なにより黒黒氏自身のイベント運営におけるプライドや鉄拳愛が実現において不可欠な要素であったと感じた。

鉄拳をはじめとして、格闘ゲーム、ひいてはeSportsはその規模をどんどんと広げていいっている。そこにはプレイヤーはもちろんのこと、イベンターやスタッフ、メディアやリスナーなど多くの人や要素が必要であり、全てが集まって初めて成立するのである。黒黒氏はこれからも様々なイベントを構想中のようだ。これからも氏の活動に期待して注目していきたい。

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