ファミ通AppVS 新着記事

【ゲームキャスターリレーインタビュー】第2回:アール(後編)「後進育成活動は、成長した姿をみんなに認めてもらえればいい」

日ごろゲーム大会の実況や解説などで活躍する、ゲームキャスター。彼らが語るゲームや選手の話は聞く機会が多いのに、彼ら自身の人となりや、彼ら自身の意見については、公の場で訊ける機会は少なかったのではないだろうか。

そこで、ファミ通では取材機会が少なかったゲームキャスターひとりひとりに、キャリアの歩み、ゲームキャスターという仕事について、そしてesportsについての意見を聞きたいと思う。なお、次のインタビュー対象も指定してもらう形式のリレーインタビューを採用している。

第2回は、アール氏。『ストリートファイター』シリーズといった格闘ゲームから、『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』公式など、多数のイベント・放送にて実況を務める。

2015年12月、ゲーム配信プラットフォームTwitchへ入社。2018年には、テレビ東京で放送中のゲームバラエティ番組『勇者ああああ』にも出演し、活動の幅を広げている。

今回は氏の歴史を紐解くとともに、ゲームキャスターという仕事、実況解説者育成プロジェクト‟ACTP”の活動について伺った。エピソード満載の内容となったため、対談は前後編にわけてお送りする。

前半は、格闘ゲーム、そしてウメハラとの出会いから、実況者として活動を始めたきっかけについて。後編は後進育成プロジェクトや、現在の国内esports事情について伺った。(※後編は後日公開予定です)

 

CVzXROEUAAIskhV
ゲーム配信プラットフォームTwitchスタッフ/ゲーム実況者。
『ストリートファイターZERO3』、『ストリートファイター4』ではガイ使いとして名を馳せた。エンターブレイン(現Gzブレイン)アルカディア編集部スタッフとして在籍し、のちにフリーランスとして活動。ライター活動ののち、Twitchへ入社。コミュニティーマネージャーとしてパートナーシップ面を担当している。

 

後進育成活動は、成長した姿を見せればいい

――実況解説者育成プロジェクト‟ACTP”(Aru’sCommentatorTrainingProject)は、どういった経緯でスタートしたのでしょうか?

アール “若人杯”という『ストリートファイターV』を用いた25歳以下の対戦会があり、そこで実況を行う大和の存在を、後に出てくるsawacoさんから聞いて、大和本人からも「話がしたい」と連絡がきて会ったのがきっかけです。彼の実況をきいて感じたのが、「コイツ、俺の実況見てめちゃくちゃ研究してるな」と(笑)。

――俺の匂いがする、的な感じですか(笑)?

アール 真似されていることが嫌ではなく、真似でもひとりでここまでなるのは結構大変だと思いました。彼から、実況に対して本気だということが伝わりました。

そこで、実際に会って話をして、実況解説者育成プロジェクトを立ち上げることにしました。ただ、自分はほかの仕事も抱えているのに、人ひとりの人生を背負うのはあまりにも無責任だなと不安もありましたね。そこで、東京ゲームショウで知り合った現役MCのsawacoさんに、アドバイザーとして入っていただくことになりました。プロジェクトを立ち上げたときは、どんな方向性かまだ定まっていなかったですね。

――ほぼ手探り状態からのスタートだったのでしょうか?

アール はい。sawacoさんには、第三者の視点で間違っていたら指摘していただきたく、アドバイザーとして参加していただきました。でも、いざ始まってみると、実況について教えるだけでは足りなくて、人として教えないといけない部分もあることに気がついたんです。

――人として、というと?

アール SNSの使いかたや、人とのコミュニケーション、現場での挨拶とかですね。自分にとっては基本のことが、19歳か20歳の若者には充分に備わっていなかった。「そこから指導が必要なのか」という気持ちも感じましたが、やると言った以上は徹底的に教えることにしました。いつか、「アールさんに育てられました」と現場に出て、粗相をして迷惑をかけるようなことはして欲しくないですし。

――では、社会人としての基本ルールを教えつつ、実況についても教えていったと。具体的には、どのように教えているのでしょうか?

アール 育成プロジェクトに関しては基本的に、どう指導しているかは情報を出さないというスタンスです。成長した姿を見せればいい。

少しだけお伝えさせていただきますと、ACPT CPTカプコンプロツアー)の中継をやらせていただいた際に、前後で反省会をします。現場での立ち振る舞いかたからフィードバックしていくのです。あとは、Twitterのツイートなどですかね。

――ツイート内容についても、言及していくんですね。

アール 「お前が何を考えてこのツイートをしたのか、透けて見えるぞ」って(笑)。発言にも気を付けてほしいですから。

だた、「こうやって育成しています」と僕が発信する意味はないんですよ。「大変です」と伝えるのもおかしな話ですし。成長した姿をみんなに認めてもらえればいい訳ですから。

DSC_0024_R

――若手が育つ手応えは感じられていますか?

アール そうですね。というよりは、人材不足もあって僕が想定していたよりも早くお仕事の声がかかったというのが正直なところです。

たとえば、大和は東京ゲームショウ2017でひとつ案件をいただいています。ですが、彼は当初責任の重大さを理解していませんでした。

東京ゲームショウというステージを作るのにどれだけの人が働いて、どれだけのお金がかかっているかということを理解できていませんでした。でも、実際にステージに立ったことでようやく理解できたと本人は言っていましたね。そういった経験を積むことで、ようやく分かることもあるんだなと。

59c65d70cd1a4_R
東京ゲームショウ2017HyperXブースで行われた『ストリートファイターV』イベントにて、大和氏は実況解説を担当。

――私も、以前ニコニコ生放送で解説を担当して、実況・解説の大変さを身をもって体感しました。

アール やはり現場に出ないと分からないことはありますね。大和に関しては、レッドブル様の‟Red Bull Tower of Pride”にも出演でお声をかけていただけています。彼には、「この場にいられることをまず感謝しろ」と伝えています。「実況をやってあげてる、なんて姿勢が見えたらだめだからな」って(笑)。

現在は、少しずつ実況案件をいただけています。まだ足りない部分もありますが、大和は‟闘会議”や‟RAGE”でもお仕事をいただけるようになりました。

もうひとり、ササ/SASAという若手がいまして、そちらはスクウェア・エニックス様の『サーヴァントオブスローンズ』の公式実況のお仕事をいただき、3ヵ月間みっちりしごきました(笑)。彼も少しずつ成長しています。

――アールさんは、言うなればコミュニティーイベントといった下積み時代の経験とご自身の努力で、現在の立ち位置を築いたと思います。若手の実況者は、恵まれた環境であると言えるかもしれませんね。

アール 「活動一年で、公式実況の案件をいただけること自体がありえない」と伝えはしますが、実感できなくても仕方がないと思っています。

下積みというものを知らなくて、それに気づくのは後のことだろうなと。それでも感謝の気持ちや、謙虚な姿勢でいることは可能です。僕も、「こいつらは恵まれてていいよな」と思う気持ちは排除しました。いまの時代には、いまの時代の苦労がありますからね(笑)。

――実況解説者育成プロジェクトは、Twitchなど企業の後援が入っているのでしょうか?

アール いいえ、どの企業にも援助していただいていません。もし、最初から協賛を受けてスタートしたら、必ずどこかの色が付いてしまうと考えています。それは実況者としていいことではないですよね。どこの色もついていないほうが、仕事を受けられるクライアントはひとつでも多くなりますし。なるべくまっさらな、色がない状態ではじめるには、個人のプロジェクトという形が望ましかったんです。

――現状、ほかの実況者の方といっしょにプロジェクトを進めていく予定はないのでしょうか?

アール 絶対にやらないという考えではないのですが、やりたがる人がいないというか……。でも、自分といっしょにやりたいという、似たようなポジションの人がいたら、検討の余地はあります。

――なるほど。ひとつ気になったのが、大和さんもササさんも、格闘ゲームだけではなく、多数のジャンルで活躍していますね。

アール

格闘ゲームがおもな実況タイトルではありますが、ふたりともゲームが大好きなのでFPSジャンルや遊んだことがあればチャレンジさせていきたいと思っています。大和は『フォートナイト』攻略企画今夜はフォートナイト!で配信にレギュラー参加させていただいています。

――最終目標としては、格闘ゲームだけでなく幅広いジャンルに対応できるようになることでしょうか?

アール ‟どんな案件がきてもできる”のが理想で、その中で自分に適したものに行くのが幸せなんじゃないかと。ただ、実績がないうちは選ぶ立場ではありません。少しでも声をかけていただけるように、幅広く。ただそれが、‟広く浅く”では意味がなので、「仕事で関わるゲームはちゃんとやれよ」と伝えます。

――最近お見掛けするようになったゲームキャスターもいますが、そういった方に伝えたいことはありますか?

アール 実況や解説といったゲームキャスターになりたい人は、ここ数年で増えたと思います。なぜかというと、“ゲームキャスター”という言葉ができたからではないかと。仕事として成立している、esportsの波が来ている、ちょっとやってみたいなという人が増えているのではないかと予想しています。

だからこそ、僕として伝えたいのは、‟どういった動機でゲームキャスターになりたいのか”は、重要だと思います。

――ゲームが好きであることが重要だと。

アール 流行りだから、とか生活の手段だから、とかもあると思いますが、そんな動機の人はおそらく生き残れません。ゲームキャスターに限らず、編集者でもゲームが好きという信念を持っている人のほうが残りやすいと思います。

――愛がないと続けられないですよね。

アール そうですね。ゲームに愛情や情熱を持っているのはもちろんのこと、「自分だったらこんな風に実況する」という考えがあるといいですね。

――愛とガッツ、そして向上心は大切であると。

アール そうあるべきなんじゃないかなって思いますね。自分も元々そうでしたし。俺ならこうする、なんでこうじゃないんだろうと、好きなものに対して人は考えると思うんです。

だから、理想を持って、それを具現化するために行動しないと、クオリティが上がりません。業界にとっていい人であり、生き残れる人は理想とビジョンをちゃんと持っている人だと思うので。

esportsの場にいる人たちの熱狂は、スポーツと遜色ない

――日本では昨今さまざまなesportsイベントが開催されています。アールさんとして、国内のesportsはどのフェーズに突入したとおもいますか?

アール さまざまな情報を知れる立ち位置にいる自分から見ると、esportsと呼ばれるものの今後は予測するだけムダだと思いました。同時多発的にいろいろなことが起こりすぎていて、それらがどのように絡まって、収束していくのかは予測して動くのは難しいですね。

見る角度によっても、盛り上がっているかそうでないかは変わりますし、ゲームジャンルによっても違います。立場によっても、入ってくる情報は変わってくると思います。人によって見えかたが変わるほど、いろいろなことが起きているというのが自分の見解です。

――なるほど。ではそんな中で、今後の活動目標はありますか?

アール 最近思うのは、もう少しフットワークを軽くできると楽しいなと。十分いろいろなことをやらせていただいていますが、自分が介入できないことも増えてきていると感じます。おもしろそうなことにドンドン首を突っ込みたいけど、それがしにくくなっているというか。もっと自分の理想を求めていきたいんです。

――理想というと、どういった内容になるのでしょうか?

アール 自分の理想は対戦ゲームが文化として認められることですね。元々がコンプレックスから始まっているんですが。こんなに対戦ゲームはおもしろいのに、世間では批判されている。それがプレイヤー時代から納得できなくて、おもしろさを伝える人がいないなら自分がやろう、という気持ちが今もあります。

そのために自分は実況者というポジションを選んだ。最終的には、社会が対戦ゲームの面白さを認めること。そういう未来を創ること。それが自分にとっての理想であり目指す場所です。

esports市場が大きくなり、プロ選手が増えて国内でもお金が回り始めている現状は、業界にとってプラスであり、環境はすごくいいと思っています。新しい業種の人が入ってきても、仲よくなり新しく何かを学べばいいかなと。

――たとえば、日本テレビがesportsチームを設立したり、吉本興行もesportsに参入しました。今後、テレビ業界の方がesportsに参入して、さらにクオリティの高い大会やイベントが出てくると思いますし、ワクワクします。

アール 心配要素として仕事を取られるのではという不安もあるとは思いますが、日々新しいことにチャレンジしていくしかないと思ってます。自分で成長して幅を広げて、それでもだめだったら「やることやったんだし、もうしょうがないだろう」みたいな(笑)。

――楽観的(笑)。

アール 人によるとは思いますけどね。その人がなにをやってきたかによりますが、少なくとも自分は新しいことにチャレンジし続けたいと思っています。

――アールさんの中で、最近チャレンジしたことはありましたか?

アール 前日、テレビ東京様の地上波ゲームバラエティ番組『勇者ああああ』出演したことです。最初は1枚の企画書が届いて……。「ゲームをやったことのない方どうしの対戦を、プロの実況者が実況だけで盛り上げられるか」という検証企画だったんです。

とんでもない爆弾が降ってきたと思いましたね。おそらく企画している人は、軽い気持ちで声をかけてくださっているというのはわかりましたが当事者として受けるかどうか、非常に悩みました。

――最終的には、引き受けたんですね。

アール 不安でしたし、ミスをしたら業界に迷惑をかける可能性すらある。自分自身が傷つくことはもちろん、ゲームキャスターの価値すら疑われることになるなと。自分だけの問題ではないかもと考えました。

――大役ですね。

アール 客観的な視点で見ていろいろと考えて、でも結局引き受けたました。自分のこれまでの経験が問われるし、「これこそ挑戦だ」と思いましたね。でも収録は、恐ろしいことに一発撮りで終わりました。

――え! 一発撮りなんですか。

アール 噛めない、やり直しがきかない(笑)。加えて、名前も呼び慣れてない芸人さんで、緊張しました。大体どんなイベントでも、前日の夜は眠れますが、今回ばかりは眠れませんでした。ずっと頭の中でシミュレーションしましたね。

――プレッシャーがかかっているとは思いませんでした……。

アール 収録現場は盛り上がってくれて、スタッフさんたちからは喜ばれていたのですが、オンエアまでは安心できませんでした。オンエアされたときはエゴサーチをして、ようやく一安心、みたいな。これまでかなり無茶な現場や仕事もやってきましたが、歴代1位だったと思います。

――大変ですが、今後こういった企画番組が増えるとおもしろいですね。もしかしたら、今後は実況者にもそういったスキルが求められるかも。

アール ‟ゲームのプロはなにがすごいか”を、一般視聴者に伝えるのは難しいじゃないですか。例えば、「足でプレイしても強い」というのはすごいことですが、でもそれは本質ではない。ゲームの実況者のすごさは、それ以上に分かりにくいと思います。そのすごさを伝えるためには、とんでもないハードルを用意しなくちゃいけないんだなというのが、今回の企画で身に染みて分かりました。

――では、今後実況に挑戦してみたいジャンル・タイトルはありますか?

アール 強いていうなら、『スプラトゥーン2』です。実は娘がかなり遊んでいて、あまりにガチすぎて、いっしょにできるように我が家にはNintendo Switch2台あるほどです。家族のコミュニケーションツールの一部に『スプラトゥーン2があります。なので、べつに自分のやる気あるなしと関係なく、いつもプレイしているんですよ。

――理想的なゲーマー家族!

アール 日常的にプレイしているので、『スプラトゥーン2に関する知識が自然に入っています。ですので、もう少し情報を詰めれば実況もできるなと。ただ、自分自身の時間的な余裕もないし、何かタイミングがあったらいいなくらいに思っています(笑)。

――分かりました。では、esportsに関する実況者の課題点や、改善点はありますか?

アール 物理的な改善点では、音声環境です。たとえばイベント配信では、音声さんがいる現場が少ないんですよね。たいていはスイッチャーさんが兼任していたり。僕は実況で叫ぶことがおおいので、音の調節が難しいと思います。音声環境によってはそれが煩わしくないように届けてくれる。でも、スタッフが少ない環境だと、「うるさい、音割れてる」と視聴者からご指摘されます。

そこで自分がやっているのが、コメントや状況、環境をみて自分で声量をコントロールすることです。でもこれって、すごく効率が悪い……(笑)。これからは、音声環境に予算を割くなりして、現場が意識を向けてほしいというところですね。

そういう意味では、テレビ業界の人たちが運営や製作が入ってくるというのは、歓迎したいです。

実況をする側の課題となるのは”一般層に対してゲームの面白さを伝える”ということの認識を改めること。今はそういうタイミングだと感じます。今まではコミュニティに対して評価される言葉選びや伝え方に比重があったと思うのですが、e-sportsが普及することによってそれ以上にゲームを知らない、やったことがない人に伝えられるかが重要になると思います。

長くやってきた人ほどスタイルを変えるのが難しいと思うので、自分も含めて頑張り時だなぁと。

――今後、国内のesportsで危惧すべき点はありますか。

アール ほかの業種の人がesportsに参入する件に関しては、共存共栄が大事だと思っています。対立は建設的ではないですし、いい人もいるので。

本質的な危惧は、“ゲームキャスター”という言葉ですよね。言葉ができたことで、ゲームキャスターという存在のフォーマットというか、イメージ像ができあがりました。ゲームについてパッときれいに解説できる、みたいな。それはひとつの形ではありますが、ひとつの形でしかないって思うんですよね。

これまで多くの仕事をやらせていただきましたが、ゲームキャスターとしての能力が求められる瞬間って、一部でしかありません。もっと別の役割を求められることも多くて。

今後、ゲームキャスターとしてゲームを実況して、知らない人におもしろさをつたえられるのは、当たり前になると思います。そうなったとき、プラスアルファで自分になにができるのかが求められる時代になってくるのではないかと。

――キャスターひとりひとりの個性が重要になると。

アール たとえば、ゲームキャスターでありながらライティングやレポートができます、とか。タレント性に特化していてバラエティもこなせるゲームキャスターなど。ゲームキャスターという職業のイメージにプラスして、自分なりの強みがないと、いつか飽和すると感じています。

――続いて、我々メディアにもの申したいことはありますか?

アール 今回、自分のような実況者、ゲームキャスターに焦点を当てて話を聞くという企画は、すごくうれしいです。第1回の記事を読ませていただいたとき、すごく長編のインタビューだったじゃないですか。あの記事を見て、この文量でやってくれるんだと思いました。

なら、こっちとしても、いままで言わなかったことを言ってもいいかなと思えたんですよね。企画に対する扱いというか、こちらの言いたいことをちゃんと伝えようとしてくれているのが分かったので。自分なりに感じたものがあったので、こちらもちゃんと考えていこうと思えました。

――ありがとうございます。

アール こういった形でスポットライトを浴びることは、実況者としてはすごく光栄です。いままで業界を支えてきたコミュニティーの人たちは、得てして日に当たらないし、当たってはいけないという享受の下で動いているから(笑)。

――そんな感じはしますね(笑)。

アール 自分たちは主役じゃない、というのは大前提として持ってるんですね。ですが、こういう企画であれば話しやすい、自分のことを語りやすい。こういう企画を続けていってもらえると、ゲームに関わって生きていく可能性も見えるんじゃないかと思うんです。

記事を見た人が、こういう仕事もあるんだ、関わっている人はこんな考えをしているんだって、これからこの業界に関わりたいと考えるひとの目安になるというか。自分も、ここに行けるかもって思えるんじゃないかなと。

――続いて、ゲームキャスターとしてesportsファンに向けて心に留めてほしいこと、行動してほしいことなどメッセージがあればお願いします。

アール まず、視聴者の方は、基本的に無責任でいいと思います。無責任に楽しめばいい。たとえば、「アールの声が嫌い」というのも意見だと思いますし、それを自分も受け入れるべきです。選手に対する煽りや野次なんて、どの業界も同じですからね(笑)

――スポーツですから、野次が飛ぶこともありますね。

アール 楽しんでいる証拠だと思います。それをすごく気にしている視聴者さんもいるので、そこに対してはもっと楽観的でいいんじゃないかなって、自分は考えています。

ただし、いちばん重要なのは、esportsはゲームを使用しているからこそ、ゲームを作っている人はリスペクトするべきです。ユーザーだけでなく、見ている人もこんなにおもしろいゲームを作った人は素晴らしいなと。スポーツとespotrsの違いは、人間が作り上げた作品の中で感動を生んでいるという点で、そこが決定的な違いであり、もっとも危うい点だと考えています。

ですので、視聴者層がこれから一般層に広がっていった際に、「これ作ったやつ誰だよ」や、「運営はアホだから調整できない」と、視聴者側が安易に批判する空気になるのはよくないですよね。人間だからミスもあるし、いまはアップデートで調整もできます。

――問題があれば、すぐに修正を入れられる時代ですもんね。

アール 自分は、作り手の人たちと話をする機会もありますが、やはり志を持って作っている人も中にはたくさんいる訳です。そういった人たちを批判していたら、いいゲームなんてできないですよ。いいゲームができないと、退屈な未来しか待っていない。もっと熱狂するいいゲームができるには、作り手をリスペクトするところからはじめたほうがいいんじゃないかなと思います。

――仰る通りです。

アール アメリカ人やフランス人は、楽観的な国民性も相まって、「日本人なら、名作タイトルの●●●プロデューサーを知ってるか! あいつは天才だ!」と、突然言ってきますからね(笑)。作り手へのリスペクトを凄く感じます。その一方で、コンテンツを作っている日本では、作り手に対する風当たりが強いように感じてしまう。そこが変わると、もっといいゲームができて、もっと才能のある人がクリエイターになりたいと思えるんじゃないかと。

――ネガティブな意見は、SNSが普及してからよく見るようになりましたね。

アール ときには、「それはやり過ぎだよ」とメーカーに言いたくなることもありますよね。そんな場合は意見してもいいんじゃないとは思います。ですが、基本的な姿勢としては、作り手をリスペクトしたほうが楽しい未来が待っていると考えています。

――なるほど。では、いままでTOPANGAリーグなどに携わっていましたが、「これが俺が求めてたesportsだ!」と感じた大会は何でしょうか?

アール ラスベガスで今年も開催されるEVOは、毎回、「ああ、これってesportsだな」と感じます。とくに去年は強く感じましたね。

EVOはきれいな舞台が用意され、万単位で人が集まり、配信も何十万人もの人が視聴して、ぱっと見でesports然としているのは誰でも感じますよね。でも自分にとってEVOで印象的なのはこの瞬間、この場にいる人たちの熱狂はスポーツと遜色がない”と感じることです。

プレイヤーが全力を出しているのはどんな場所でもいっしょなのにEVOではより鮮明に”プレイヤーの命がけの情熱”が観客にも伝わっていると思うんですよ。

――会場全体が盛り上がっていく、あの感じですね。

アール 「この一試合で、コイツの人生が懸かってる」と、その場にいる観客全員が肌で感じて理解するみたいな。だからこそ、技が一発当たるだけで「うおー!」ってなるし、体力がちょっと減るだけで盛り上がる。それって、その場にいる人たちが感情移入して、プレイヤーに入り込めているんだと思うんです。それこそ、スポーツだなと。だからEVOがいちばん、esportsなんだと感じています。

Dj578L0VAAMp5NG

――そういえば、「日本の大会は観客が静かだね」と海外メディアに言われたことがありました。

アール そこが実況者としての課題だと言われています。どうやって実況したら人は声を上げてしまうか、「うおー!」と歓声を漏らしてしまうか。実況者が誘導するべきところでもあるし……難しいです。

――難しいと思います。

アール 感情移入の手助けを実況ですることは可能です。それは自分の実体験からもあるので、そこはもし日本が海外よりも熱狂が少ないのであれば実況者の腕の見せ所とも考えられます。むしろ、熱狂してもいいという風に、実況者が観る人たちを育てていくことが課題なのかもしれませんね。日本でもプロレスや格闘技、サッカーには熱狂がありますから。そういった雰囲気づくりはできないことはないと思っています。

――続いて、いまのesportsで期待が持てそうな点などはありますか。スイスでIOCがオリンピックとesportsについての公開カンファレンスを実施した例もあります。

アール オリンピック競技への選出は、もしかすると法律が変わっていくといった点ですごく期待しています。だからこそ、新しい力が必要。いままでの力では変えられなかったものが、新しい力によって変わっていくかもしれない。そこが期待できるところです。

一方で、市場が大きくなることでさまざまな問題が表面化して、事件も起こるかもしれません。そんなとき、ネガティブに捉える人もいらっしゃると思います。また、ひとつの事件をきっかけとしておかしな流れを作られるかもしれない

しかし自分が知る限りでは、キーポイントとなる立ち位置には信念や情熱を持った人がいると感じています。表からは見えない裏で活躍している人たちがいて、いい方向に持っていこうとがんばっているというのはすごく感じます。そういう人たちがいる以上は、市場が大きくなっていく中でも、ある程度問題なくやれるんじゃないかと。漠然とした不安を抱えてる人たちには、一応安心材料として伝えたいです。

――一方、ビジネス(お金儲け)の匂いに敏感な方もいると思います。

アール 元々、日本人は嫌儲文化ですからね。さらに、格闘ゲームをはじめゲームって偏見を受けていましたから、僕らの時代はとくに。そこでゲームで稼ぐとなると、もうダブル役満なんですよね(笑)。ゲームをやっているだけでもダメなのに、それでお金を稼ごうなんてなんてやましい人間なんだ、みたいな風当りもあります。

おそらく、リアルが充実してる人は、お金を稼ぐことの尊さが分かっていると思います。現状、ゲームが好きでずっと食事中もやっている人であっても、自分の実生活に満足していない人が多い。それはもう誰のせいでもなく、日本の教育の歴史とか、ゲームが位置づけられた運命ですよね。ゲームってダメだよって親が言うような文化だから、誰が悪いとかじゃないと思うんですよ。

ですが、今後は必ず、「ゲームをしてお金を稼ぐという人がいる」という考えが根付いていきます。

――ありがとうございます。最後に、つぎのインタビュー対象者の指名をお願いいたします。岸さんは、「アールさんあたりで一度格闘ゲーム界隈のキャスターを回してほしい」と仰っていましたが……(笑)。

アール 岸君が格闘ゲームで回してと言いましたが、じゃあ格闘ゲーム方面で誰かいるかなと考えました。ですが、中途半端になりそうですし、パッと浮かぶ人がいませんでした。

一番はじめに思い浮かんだのは、『リーグ・オブ・レジェンド』で活躍されているeyesさんです。eyesさんとは、実況論などの話をしたいと言っていましたし、そういうのは然るべき場でやったほうがおもしろそうなので、彼にバトンを渡したいと思います。

eyesさんの実況スタイルは、一気にテンション上げていったりと、自分に近いスタイルの部分があると思っていまして。単純に、実況ついてなにを考えているのか、非常に興味がありますね。

DSC_0005_R

取材・編集:工藤エイム

新着記事ランキング

過去24時間のPV数が高い記事(毎時更新)

ゲームタイトルランキング

過去24時間のPV数が高いタイトル(毎時更新)

新着記事をもっと見る

注目の大会をもっと見る