日本のチームながらもメンバー全員が韓国人のチーム“DeToNator.Korea”は、2018年3月22日から5週間に渡って台湾にて開催されるアジア太平洋地域の『オーバーウォッチ』公式大会オーバーウォッチ コンテンダーズ・パシフィック(Overwatch Contenders 2018 Season 1: Pacific)に参加している。
そして彼らをサポートするのが、台湾人のふーちゃん氏と、元選手として活動していたyoshiharu氏。yoshiharu氏は元漁師という経歴を持ちながら、プロゲーマーとして2017年に台湾で行われたOverwatch Pacific Championship 2017に出場。大会終了後もひとり台湾に留まり、活動を続けていると言うのだが……。本稿では、このおふたりにDeToNatorが台湾で行っている活動についてお話を伺った。

元漁師、元選手のyoshiharu氏が台湾で活動する理由
ーーさっそくですが、漁師を辞められてプロゲーマーとして活動を開始し、現在は台湾でDeToNatorのサポートをされていると聞いたのですが、yoshiharuさんはどういった役職になるのでしょうか?
yoshiharu 役職はしっかり決まっている訳ではないのですが、いまはマネージャーのような立ち位置で活動を行っています。台湾で活動を始めた理由は、2017年に”Overwatch Pacific Championship”でDeToNator所属選手として活動したときに、台湾がすごくesportsプレイヤーにとって恵まれいて幸せな環境だと思ったんですよ。DeToNatorは2016年から台湾で活動してて、環境も揃っているのでそれを利用し、この環境で何かできたらいいなと思ったのがおもな理由です。
ーー恵まれた環境というのは、具体的にどういったところで感じましたか?
yoshiharu 台湾では、esportsプレイヤーがアイドルに近い扱いをうけるんです。日本とは違いプロゲーマーという肩書だけで「yoshiharuさん!」みたいに話かけてくれて(笑)。その方はほとんど面識がなかったのですが、すごく憧れた目で見てくれました。ほかにも、教育面では大学や高校にもesports専攻クラスがあります。また台湾政府は、正式にesportsが一般的な“スポーツ”として認めるとしていて、社会的な地位を完璧に築いています。そういったことを比べると、日本とは環境が違いますね。

ーー日本だと「いつまでゲームやってるの!」という文化が根づいてしまっていますが、台湾では一切感じないと?
yoshiharu まったく感じないですね。
ーー台湾で約1年ほど生活してもそれは変わらないですか?
yoshiharu 変わらないです。WirForce(https://www.wirforce.com.tw/)というLANパーティだったり、台北ゲームショウに行くと、自分のようなほとんど成績が残せていない人物でも「yoshiharuさーん!」、「握手してください!」と声をかけてくれたりします。日本だと絶対ありえないことです。
ーーそういった出来事があると、活動のモチベーションアップにもつながりますよね。
yoshiharu そうですね。やはり、これから若い方がプロゲーマーを目指したとき、皆からたくさん応援される・認められる環境で頑張って欲しいとは思いますね。
ーー現在日本で活動しているプレイヤーに、台湾で活動してもらうということも考えているのでしょうか?
yoshiharu もちろんそれができたらいいとは思います。しかし、簡単にはできないのが現状ですので、まずは台湾の若いプレイヤーからでもいいかなとは思っています。そうやって色々と経験を積んで、その糧を日本に持ち帰ることもできたらと思います。
ーー実際にいま具体的な活動をされてますか?
yoshiharu 台湾では“TIeSA”という、学生のeposrts関連の活動を支援しているesports組織があります。DeToNatorは“TIeSA”と提携しており、最近では『PUBG』を使用して僕と40名の生徒たちによる模擬大会を行いました。今後も、学生大会を“TIeSA”とDeToNatorが協力して実施していく予定です。
ーー台湾での活動が着実に実になっているのはスゴイですね。
yoshiharu すべてが自分の力という訳ではないんです。台湾は、人と人の距離が近くてコミュニティの密度が高いと感じます。コミュニティに入っていくと、いろんな繋がりができて、あとはやる気さえあればさまざまはプロジェクトに関して声がかかる感じです。
ーー以前は漁師でしたが、未練はなかったんですか?
yoshiharu まったくありません。そもそも漁師自体が自分にとってはゲームみたいなものだったので。ゲームをプレイしてお金を稼ぐことが可能になったのは、最近の出来事じゃないですが。でも僕がいちばん熱中してゲームをやっていたのは、6~7年前なんです。その頃はやはりプロゲーマーに関する認知も低くて……。ですので、少しでもゲームらしい職業で生きていきたかったので、漁師を選んだのが理由です。
ーー漁師をゲームに例えると、みたいなことでしょうか。
yoshiharu 自分の船を持って、魚が取れたら金になる、取れなかったら……食っていけない。もう自分との勝負ですね。それが自分にとってはゲームのような感覚でした。いまは漁師に未練はありません。「I love game」なので(笑)。
ーーゲーム優先の人生ですね。
yoshiharu そうですね。意識しないでも、自然とそうなっちゃう。
ーーそういう意味では、DeToNatorに入ったのは、人生の分岐点になるのではないでしょうか。
yoshiharu その通りです。本当に、DeToNatorに入れてよかったと思います。選手として活動するだけではなく、海外に視野を向けていろんな活動を行っています。こういう活動に携われているのはDeToNatorだからこそだとです。
DeToNatorが行う台湾での活動を支える屋台骨、ふーちゃん
ーーDeToNatorとしてふーちゃんが行っている活動を教えてください。
ふーちゃん DeToNator代表の江尻は日本にいるので、台湾のesports事情を報告しつつ、オーバーウォッチコンテンダーズ・パシフィックに出場しているメンバーのサポートを行っています。
ーー具体的には選手たちにどの様なサポートを行っているのでしょうか?
ふーちゃん サポートしている選手たちは韓国から台湾に拠点を移していますが、基本的に自分のことを自分でこなせるので、生活面での心配はありません。ただ、現場ではいままでの経験がないと対応できない状況が発生します。その対処が一番大事な仕事です。
ーーいわゆるイレギュラーな対応ですね。オーバーウォッチコンテンダーズ・パシフィックの初戦では、試合前に走り回っていましたよね。マウスバンジーの置き方について運営側と調整されているのを見ました。まさにこういう瞬間ですよね。
ふーちゃん そうですね。私たちはいかに選手たちをいい環境で試合させるか、というのが仕事なので、運営側と調整してお互いの意見から折り合いのつくろ所を探る、いわば選手と運営の仲介役でもありますね。

DeToNator.Koreaが挑む姿勢は世界に劣らない
ーー選手たちの1日の活動スケジュールを教えてください。
ふーちゃん タイムスケジュールの作成はコーチに任せています。いまは13時から自主練習、14時から21時まで休憩をはさみつつスクリム(練習試合)を行い、21時から24時は個人練習やストリーム配信をして、24時からコーチと選手のフィードバックが行われます。フィードバックは選手とコーチが反省点を挙げたり、戦術を練ることがおもですね。各選手の個人視点とスクリムでの空撮動画から戦術を考えていて、「このマップでこの戦術を試そう」といった具合です。その戦術に柔軟に対応できるところが、選手たちのすばらしい点ですね。

ーー初日の試合では、 BLITZ選手がソンブラを多用していたじゃないですか。yoshiharuさんのツイッターのつぶやきでは、ブリッツさんのソンブラノートがあったりなど、こだわりを感じました。
現在2-0で進行中ですがここでちょっとした裏話。今試合はソンブラ強化パッチで行われていますが、ソンブラ強化パッチが当たるのは本来来週の予定でした。知らされたのは2日前。ソンブラを担当するBlitzはソンブラに慣れてないので「ソンブラノート」を持って挑んでます。 pic.twitter.com/9YHi5RiDN3
— yoshiharu (@yoshiharu2630) 2018年3月24日
ふーちゃん じつはちょうど大会前にパッチが配信されて、ソンブラが強化されたんです。大会でそのパッチが適用されるということを知らされたのがついこのあいだで、ふだんはちゃんと準備をしているんですけど仕上げるには時間が足りず……。ですが試合では完璧こなさないといけません。BLITZがノートにメモをまとめて試合に臨んだのもそういった理由ですね。

ーー韓国人選手6名が台湾で生活するというのはやはりたいへんですか?
yoshiharu 最初は心配していたんですよ、平均年齢19歳の男7人なので。数日おきに様子を見に来ているのですが、雰囲気は一切悪くないですね。ひとつ気になるのが、部屋が軽く散らかっている程度かな(笑)。1月からもうすでに2ヵ月半ほど台湾で生活していますが、チーム内の問題もないのは幸いです。
ふーちゃん すごく安心してます。
yoshiharu 僕が選手として台湾に来たときは、正直いろいろ問題がありました。いまの彼らを見ていると、僕たちのときはチームを維持するだけで精一杯だったと思います。
ーーそれはどういった理由でしょうか?
yoshiharu それぞれのモチベーションの違いだったり、海外での生活自体がストレスになってたり、本当にいろんな要素がありますね……。
ーーDeToNator.Koreaの選手と、以前のyoshiharuさんたちが『オーバーウォッチ』に向かう姿勢に違いはありますか?
yoshiharu 彼らにとって朝から晩まで『オーバーウォッチ』をやることは当たり前で、その「やらないといけないことだ」という意識は微塵もないんです。『オーバーウォッチ』を愛しているのだと思うんですよ。僕の場合は正直なところ、「練習しなきゃ」という思いがありました。「台湾まできて大会に出ているし、プロゲーマーだし、ちゃんとやらないとね」って、なんとか重い足を上げてやっているような雰囲気だったと思います。彼らに関してはそんなことは一切なく、『オーバーウォッチ』がたまらなく好きだから自然とやってる、そのように感じるんですよ。

ーー日本人選手と韓国人選手の意識の違いは、そういうところで差が開いていくのでしょうか?
yoshiharu そうだと思います。
ふーちゃん 彼らは、見ている先が違うんだと思います。ずーと長い目で『オーバーウォッチ』シーンを見ているんです。前の日本チームは「できればこの大会で優勝したいな」くらいのビジョンですが、彼らが見ているのは“オーバーウォッチ リーグ”です。
ーーやはり目指す先は“オーバーウォッチ リーグ”の選手になることであると。
ふーちゃん その通りです。彼らはものすごい膨大な量の練習をしていますし、練習は裏切りません。ですので、この先も勝てると信じています。
yoshiharu 彼らは勝つべくして勝っていると感じています。負ける要素がありませんね。

現状ではプロesports選手が出場するとしても、オーバーウォッチ コンテンダーズ・パシフィックでさえ空席が目立つことがあった。
だが、彼らを見ていると「応援したい」という気持ちが沸き上がる。彼らのプレイスキルが高いのは当たり前だが、立ち振舞いや受け答えといった“人間性”が垣間見られる部分もしっかりしており、ハードワークをこなし一心不乱に練習するその姿にとても“プロ意識”を感じた。いつの日か、彼らはトッププロとして活躍し大勢の観客を魅了するだろう。
今回初めて韓国プロ選手を直撃して、プロとしての姿勢に感銘を受けたし、これがプロ意識なのだと認識を改める機会になった。日本人選手たちも参考になるのではないだろうか。
文・取材:編集部 工藤エイム、ライター みずイロ