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ウメハラ、ももちらプロゲーマーのアツき戦いを描いた映画『リビング ザ ゲーム』合津監督インタビュー

ウメハラ、ももちといったプロゲーマーのアツき戦いとその裏舞台を描いた初の長編ドキュメンタリー映画『リビング ザ ゲーム』。現在、下記スケジュールにて順次公開されている本作の監督を務める合津貴雄氏のインタビューをお届けする。

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■上映スケジュール
3月3日(土)~ 東京シアターイメージフォーラム(03-5766-0114)
3月31日(土)~4月13日(金) 愛知 名古屋シネマテーク(052-733-3959)
4月14日(土)~4月20日(金) 宮城 チネ・ラヴィータ(022-299-5555)
今春 大阪 第七藝術劇場(06-6302-2073)

※『リビング ザ ゲーム』公式サイト

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合津 貴雄監督(記事中は合津)
大阪出身。大学時代から自主映画の制作を始め、卒業後に一般映画館で作品上映を行う。2012年、東京ビデオセンター入社後、フィクションからノンフィクションに活動の場を移し、テレビの世界でNHKを中心に情報番組などに携わる。本作品は、監督初の長編ドキュメンタリーである。

格闘ゲームを題材に選んだ理由

編集部 豊泉(以下、豊泉) まずは、なぜ格闘ゲームに目をつけたのでしょうか?

合津 梅原大吾さんの本を知ったのがいちばん最初のきっかけでした。ゲームの熱狂が広く海外にも波及していることも驚きましたが、何より彼の苦しみがとても興味深かったんです。

豊泉 苦しみというのは?

合津 ゲームがうまくなるほど“アイデンティティークライシス”に陥るというか、うまくなるほど社会から認められないという苦しみですね。なぜ格闘ゲームを題材にしたかというのは、梅原さんがスタートだったというのもありますし、さらに格闘ゲームは個人戦であるので、個々人の考えかたが如実に衝突する楽しみがありました。僕はゲームをほとんどやりませんが勝敗の行く末にファンが熱狂している姿は衝撃的で「そこで生きている人たちは何を思って生きているんだろう?」と知りたくなり、実際に梅原さんに話を聞きに行ったわけです

※自己喪失、「自分は何なのか」「自分にはこの社会で生きていく能力があるのか」という疑問にぶつかり、心理的な危機状況に陥ること。

豊泉 そういった経緯があったんですね。

合津 さらに梅原さんが伝説を作ってきたというラスベガスで開かれるEVOをネットで見て、ゲーマーたちの中に「人に会いたい、この目で見たいという欲望が渦巻いている」というのがすごく衝撃的でした。たとえば、音楽もネット上で配信されるようになっていく一方で、ライブが盛り上がりを見せるようになる。オンライン化が進むにしたがって、実際に人と会うという欲望がさらに生まれてきたわけで、ゲームも人に会いたいという欲望をはらんでいるのがすごく現代的だと思ったんです。ゲームに興味がない人からすれば、ゲームをやっている人は「どうせ家に引きこもってるんでしょ?」というイメージを持っているかもしれません。もしくは、僕もそうでしたが「無関心」でしょう。この「冷たい視線」や「無関心」があるからこそ、プロゲーマーたちが世間からすれば何の意味もないかもしれないという葛藤を抱えながら、それでも自分の生きる道を必死に模索する姿を見せられると、若者への目線も変えられるんじゃないかと思うようになりました

豊泉 企画立ち上げ当初に僕も取材を受けましたが、やはり多くの関係者に話を聞いたのでしょうか?

合津 そうですね。梅原さんを始めとしたさまざまなゲーマーに話をうかがいました。そうしたら、彼らゲーマーはほかのゲーマーのことをあまり知らないように感じ、ゲーマーの間でも意外と知られていない物語をひとり探っていく楽しみがありました。

豊泉 いまでこそプロゲーマーはみんなで集まって練習したり、ウメハラさんがWeb番組をやったりと、仲のいい雰囲気がありますけど、ひと昔前のゲームセンターがメインだったころはもっとバチバチやっているイメージはありました。それにゲームセンターはゲームという価値感を共有している場だから、プライベートがどうとかいちいち気にしていなかったですよね。僕も記者ではありますがゲーマーなので、取材でもプライベートのことを聞くのは慣れていません(笑)。

合津 これは、ふだんテレビの現場で働く私の自戒の念も込めて言うのですが、テレビなど一般メディアは、プロゲーマーの存在を「賞金で何億円稼ぐのか?」、「年収はいくらか?」などゲームでお金が稼げるという「情報」のみに特化して報じているように見えました。実際、僕自身がそういった番組の制作担当なら同じように、その一点にニュースバリューを置いて報じているかもしれません。でも、それでは5分以上の物語が作れない。今回は、長尺の作品になることが決まっていましたので方法論が違いました。人からはよくないものとされ、うまくても何の評価の対象にもならず、のめり込んでしまう「毒」を飲みながら前に進もうとする、その時に生まれる生活の苦しみや人生の選択に重点を置くことを考えました。そんな経緯もあって今回、僕はただ年収を聞くということはあまりしませんでした。生活レベルは、大会や彼らの暮らしを見ていればおのずとわかってもらえるのではないかと考えました。

プロゲーマーはふつうじゃないからおもしろい

豊泉 映画では、プロゲーマーのふだんの生活に迫っていますよね。

合津 プロゲーマーの方たちがふだんどんな様子で生活をしているのかというのは、一般ゲーマーすらも見たことがないでしょう。ましてやゲームを知らない人からすれば想像もつかない世界で、そこに深い哲学を持っているだなんて思いもしないままに、彼らに対して冷たい視線を投げかけているのではないでしょうか? 少し飛躍した話かもしれないですが、いまヘイトから不倫に対するバッシングまで目を疑うような「炎上」が起き続けていて、他者に対する不寛容さにあふれる日本に“暗澹”たる気持ちになることが個人的にはあって。そういう状況を簡単に変えることはできないでしょうけど、たとえばゲーマーという「他者」を知ることで、自分がいままで抱いていた見方が変わるという体験を僕自身がしたので、プロゲーマーの生活や葛藤を見ることは、この現代を強く生き抜く方法を考えるきっかけになるような映画にしたかったんです

豊泉 映画では、実際にももちさんやチョコブランカさんの練習シーンを取材していました。泊まり込みで取材をしたという話は本当なのでしょうか?

合津 ももちさんの家に泊まり込みで取材をさせてもらうために2時間くらいかけて頼み込み、ご許可をいただきました(笑)。いざ実際に間近で何時間もその練習を見ていると、話しかけるのもためらわれる鬼気迫る表情で、ボタンを押す作業が野球戦選手でいう地獄の千本ノックのように見えてきて「きびしいですね……」と声が漏れてしまうくらい真剣に練習をされていました。

豊泉 僕もプロゲーマーが集まる練習場を覗いたことがあるのですが、張り詰めた空気なので練習以外の目的であの場にはいられないですよ。

合津 じつは、その感触をどうやって伝えるかというのがすごく難しかったんです。僕が練習シーンを映像に残しても一般の人からすると、ゲームで遊んでいるようにしか見えないのではという不安がありました。同時にそのギャップのおもしろさをどう伝えるか。どの日を切り取るかが大事だと考えました。そのためには、ももちさんの感情がいちばんあふれた、ある一日を撮りたいと思ったんです。それで、日本最高峰のリーグ戦、トパンガリーグ(※)第5期、最終日翌日に朝から泊まりに行く約束をさせていただきました。ここで勝っても負けても、この大会は梅原さんが無類の強さを発揮してきた大会ですし、結果にこだわるももちさんにとっても大事な大会になると思いました。果たしてリーグ戦はもつれにもつれ、ももちさんと梅原さんの試合は「どちらか勝った方が優勝」というこれ以上ないカードとなりました。結果、ももちさんは梅原さんに大差で負け3位に終わりました。

※多くのプロゲーマーが参戦する国内最高峰のリーグ戦

豊泉 勝ったほうが優勝というすごい試合でしたね。

合津 ええ、そんな苦しい状況の中、ももちさんは約束通り、僕を家に迎えてくれました。しかも、僕はそんなももちさんに朝一番から「何で昨日負けたと思います?」と傷口に塩を塗るだけでなく「そんな戦い方で梅原に本当に勝てるんですか?」、「何が自分に足りないと思います?」など、それはまぁ失礼なことばかりを投げかけたんですが、そのひとつひとつにももちさんは本気で悩みながらも答えてくれました。毎日悪夢を見てうなされる毎日を送っていること、王者からの転落の恐怖を感じていること、彼のさまざまな苦しみを聞かせてくれたんですね。一般社会からすると「たかがゲーム」という視線は現実にあると思いますが、彼の息がつまるような告白を見て、プロゲーマーがゲームと向き合ってきた人生の時間を、お客さんに感じてもらえたらこんなにうれしいことはないですね。

豊泉 それが冒頭の社会に認められない苦しみにつながるわけですね。

合津 ウメハラさん然り、ももちさん然り、ゲームで生きていくということを選んだぐらいだから、ありふれた人生じゃないんだなというか。この業界が「景気がよさそうだから乗ったんです」というわけでは当然ありません。彼らは人生の裏打ちがちゃんとあるんですよね。これまでの長い人生の中で、ゲームに救われたときもあり、恨んだこともありという人生が脈々と続いてきたうえで、彼らはここにいるんだなと。そういった背景を知れば、ゲームに対する見方も変わってくるだろうし、それを間近で観られて、僕自身もここまで自分に向き合えているだろうかと考えさせられましたね。

豊泉 本当に彼らはゲームに生きていますよね。

合津 「安心や保証がほしい」という生きかたもありますけど、一般的ではないプロゲーマーという特殊でこれまでになかった職業では、「安心」と「自由」を両立するのは難しいと思います。ですが、彼らは現実も冷静に見ながら、楽しんでも終えているわけですね。

豊泉 梅原さんは自身の人生を振り返って「わくわくするほうを選んできた」とおっしゃっていましたし、決して安全な道を歩んできたわけじゃないですよね。

合津 そういった未開の地を進んでいるから、彼らはおもしろい人たちなんでしょうね。だからこそプロゲーマーになることを選んだ人たちは、「おもしろいことをする人たちであろうとする精神が大事なんだろう」と改めて思いました。「変わった生き方をしてるんだぜ、俺たちは」ということを意識して、それをもっと外に発信してほしいですね。

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なぜ、ウメハラではなく、ももちを中心に描いたのか?

豊泉 ウメハラさんの取材からスタートした本作品ですが、なぜももちさんを中心に追いかけることにしたのでしょうか?

合津 梅原さんはさまざまな苦労を乗り越えて、強固なメンタルを備えていて、現在進行形の生活の不安や感情の揺らぎ切り取ることが難しいかもしれない。それで梅原さんのライバル的な存在を捜し始めました。社会の冷たい視線を受けながらも王者であり続ける梅原を越えるためにそのライバルの悩みは現在進行形のはずです。しかし、ここで僕の目論見を大きく外れました。取材したゲーマーの方の多くが「梅原には勝てない」と仰るんですね。プロゲーマーという前例がない商売をしている人たちが、ある種の限界を感じてしまっていることに僕は非常に困惑しました。それほどまでに「梅原」はカリスマだったのかと。

豊泉 たしかに、あれだけの実績がありますし、なかなか言えないのかもしれませんね。

合津 でもそれだけ壁が大きければ大きいほど、まだ見ぬライバルはきっともがき続ける人だろうと諦めず、梅原に勝ちたいとう男に出会える機会を探していました。そんな中、カプコンカップ2014でももちさんが優勝し、帰国後、彼に会いに行き「梅原さんのことをどう見ていますか?」と質問したら「梅原を超えたい」と、リップサービスじゃない本気の言葉が返ってきたんです。プロゲーマーなんだから当然じゃないか、そういう表情でした。即決で1年追いかけさせてもらうことにしました。

ファンは選手の必死な姿を観たいはず

合津 その後も1年から2年かけてプロゲーマーを追いかけていく中で、「梅原を越えたい」や「この大会で絶対勝たなければいけない」という声を聞くことがあまりなかったのですが、豊泉さんはどうですか?

豊泉 近年、プロゲーマーにとってはどの大会もカプコンカップの予選、あるいは数あるトーナメントのひとつという気持ちは少なからずあると思いますし、年に1回しか大きい大会がなかったころに比べれば、ひとつの大会に懸ける想いは薄くなっているのかもしれません。

合津 やっぱり、そういったものを感じますか?

豊泉 「この大会は絶対に勝つ」という言葉を聞くことは減ったのではないでしょうか。一発勝負のトーナメントは運の要素が強いから仕方ないととらえる人も少なくないと思います。

合津 「絶対に勝つんだ」というアツい言葉があり、なんでこの人はここまでゲームに懸けているんだろうとなり、このパンチ一発にどんな思いが込められているのかをファンは知りたくなるのではないでしょうか? 梅原さんは「絶対に優勝します」と言うことは決してありませんが、彼は実際にはEVOを連覇していたり、巌流島のように日時を決めた果たし合いのようなことをやったり、自分がここで勝たなきゃいけないというポイントを自分で見つけて、それをちゃんとファンが楽しめるような物語として筋道を作ることをしているように僕からは見えるんですね。

豊泉 なるほど、いまウメハラさんがやっている対決企画の「獣道」はそういった発想から来ているのかもしれませんね。

合津 ハシゴを作った人と登る人という見方もできると思うんです。梅原さんはハシゴを作った人であろうかと思いますが、そのハシゴを登る人は「一発勝負のトーナメントは運の要素が強いから仕方ない」ではなく、まずその現実にぶつかって、結果が得られる時もあれば、負ける時も経験して、という行程を経て、自分のハシゴを見つけることができるのではないでしょうか? 先駆者と同じハシゴを登っても永遠に先駆者と違う結論を見つけられないというか。

豊泉 たしかに、開拓者である梅原さんと同じことをしていては、それを超えることはできませんね。

合津 僕も彼らと同じ世代だからよく思うんですけど、下から上を目指すとき「〇〇に勝たなくていいのか」、「〇〇を超えなくていいのか」ということに直面します。暑苦しい言いかたかつ私事で恐縮ですが、少なからずそういうももちさんの姿に僕は大きく影響されました。僕は自分のことを「勝負」にこだわるほうでもない人間なのかなと思っていましたが、仕事をするうえで「悔しい」感情や「嫉妬心」なるものが自分の中に眠っていたことに気づかされましたし、その扱いに苦しみはしますが、いまはそれでいいとも思っています。

豊泉 結局、人が必死になっている姿って人を惹きつけると思うんですよ。だから、個人的には、そういう姿をどんどん見せてほしいと思っています。と、偉そうなことを言ってしまいましたが、本来はメディアである僕らがそういった記事をどんどんやらないといけないので、そこはとても反省しています。今後はしっかりと取り上げていこうと思っています。

合津 これからは豊泉さんもプロゲーマーに、「そんなんでいいのかよ、この野郎!」みたいに取材されるわけですね(笑)?

豊泉 今後はそういうスタンスも取り入れていこうかと思っています(笑)。やっぱり、僕もむき出しの感情をもっと見たいですからね。

合津 そういう意味ではカプコンカップで負けたあとのももちさんはすごく印象的でした。試合後に話を聞いたら「初めて自分が弱いと思った」とおっしゃっていたんですよ、メンタルも含めて。「それまでは自分は強い、強くならなきゃいけないと思っていたけど、この大会で初めて弱いと思った」と。で、彼はその翌日に「チョコさんと結婚する」というツイートをして……。彼が本当に真摯にご自身に向き合って出した結論であることが伝わりましたし、自分の弱さを認めるのは、強くなるために通らなきゃいけない道だと教わりました。

豊泉 では最後に、映画をご覧になる方々へメッセージをいただけますでしょうか?

合津 この映画は「人から間違っていると言われてもいいんだ」ということがひとつのテーマになっています。登場するプロゲーマーたちが現実のきびしさの中で選択する答えはそれぞれ違い、彼らの中の誰かに自分を重ね合わせることが、きっとできるのではないかと思います。このままでいいのだろうかと、自分の人生に迷いを抱えた人たちにこそぜひ見てほしいですね。人生は自分が思うようにはいかないかもしれませんが、間違い続けられる人ってやっぱり魅力的だと思います。

 

編集部 豊泉三兄弟(次男)

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